ジェランガムは、発酵によって得られる天然の多糖類です。水草から採取された微生物スフィンゴモナス・エロディア(Sphingomonas elodea)がブドウ糖などを栄養源として菌体外に蓄積した多糖類を、分離・精製して生産したものです。このジェランガムは、高アシル基含有のHAジェランガム、アシル基を除去したLAジェランガムの2種類があります。

1.構造

ジェランガムは、下図に示すような4つの糖分子の、繰り返し単位からなる多糖類です。

HAジェランガム、LAジェランガム

ジェランガムは直鎖状のヘテロ多糖類で、主鎖に2個のグルコース、1個のグルクロン酸、1個のラムノースの4糖が結合した構成となっています。HAジェランガムでは、2個のアセチル基を置換する置換基として、アセテート及びグリセレートが存在しています。この2個の置換基は、同一のグルコース残留物中にあり、繰り返し単位あたり平均1個のグリセレートが存在し、繰り返し単位の一つ置きに1個のアセテートが存在します。また、LAジェランガムは光散乱及び固有粘度測定によると分子量が約50万といわれています。

2.製造工程

ジェランガムは、糖類を発酵することで生産されます。発酵後、回収され、精製、乾燥粉砕され製造されています。

図:ジェランガムの製造工程

3.特性

溶解性

ジェランガムを水に分散させた後、LAジェランガムの場合は90℃以上、HAジェランガムの場合は85℃以上の温度で加熱溶解が必要となります。 また、ジェランガムの溶解時には溶液内のカチオン類の影響を受けるので、カチオン類が多い系では溶解時に注意が必要です。LAジェランガムではカチオン類存在下の溶液に溶解させる場合、クエン酸ナトリウムなどのキレート剤を添付するか、より高温での加熱溶解が必要になります。一方、HAジェランガムの場合、カチオン類の影響はLAジェランガムに比べて少ないですが、高い濃度のカチオン類はゲル化温度が上昇する傾向にあるため、注意が必要です。

ゲル物性

ジェランガムはゲルを形成し、HAジェランガムはゼラチンのように軟らかくて弾力性の強いゲルを、LAジェランガムは寒天のように硬くてもろいゲルとなります。

ゲル物性

LAジェランガムのゲル化機構はカチオンの存在により強固なゲルを形成し、その機構は右図のように考えられています。LAジェランガムを加熱することで水和させるとランダムコイル状となり、冷却することで二重螺旋を形成します。さらに冷却すると1価のカチオン存在下ではカルボキシル基の電荷が中和され二重螺旋同士が水素結合により会合し、2価のカチオン存在下ではカルボキシル基間をイオン的に架橋し二重螺旋同士が会合してゲル化が起こります。

機構

一方、HAジェランガムはカチオン類を必要とせず加熱による水和の後、冷却することでゲルを形成することが可能です。これは、二重螺旋内のグリセリル基が相互作用により二重螺旋を安定化するためと考えられています。また、二重螺旋の外側に位置するアセチル基が二重螺旋の会合を阻害するため、ゆるく弾力のあるゲルを形成すると考えられています。また、ゲル化温度はLAジェランガムが約40℃、HAジェランガムが70℃~80℃です。

濃度とゲル強度

LAジェランガムは極めてゲル力価の高いゲル化剤で、カチオン存在下ではわずか0.1%でゲル化します。また、HAジェランガムはガム濃度を増加させた場合において、同一濃度のLAジェランガムと比較して軟らかくて弾力性の強いゲルとなります。

ゲル濃度
歪み率
イオンの影響

・カルシウムの影響

HAジェランガムは乳酸カルシウム濃度の増加と共にゲル強度が高くなり、また弾力性も強くなります。LAジェランガムは乳酸カルシウム濃度の増加と共にゲル強度が高くなり、一定濃度を超えると低くなります。

ゲル濃度 歪み率
・ナトリウム、カリウムの影響

HAジェランガムは食塩もしくは塩化カリウム濃度1%時に最大のゲル強度を示し、以後は濃度を高くしていくとゲル強度が低くなり塩化ナトリウムもしくは塩化カリウム濃度10%ではゲルを形成しません。LAジェランガムも塩化ナトリウムもしくは塩化カリウム濃度1%時にゲルを形成しますが、濃度を高くしていくとゲル強度が低くなり5%以上ではゲルを形成しません。

ゲル濃度:塩化ナトリウム濃度
ゲル濃度:塩化カリウム濃度
砂糖の影響

HAジェランガムは高糖度の条件でも弾力性のあるゲルを形成し、LAジェランガムは30%までの砂糖濃度ではゲルを形成しますが、35~40%以上の濃度ではゲルを形成しません。

ゲル濃度:砂糖濃度
離水

LAジェランガムは離水が認められるのに対して、HAジェランガムはほとんど離水がありません。

離水率
ゲルの透明性

LAジェランガムは極めて透明性の高いゲルを形成します。それに対し、HAジェランガムは不透明なゲルを形成します。

ゲルの透明性

4.応用例

食品への応用例
懸濁安定性

HAジェランガムを0.02~0.1%で水に分散し、加熱溶解して容器に充填すると、ネットワークを形成し、固形物を懸濁する効果があります。オレンジジュースに添加した場合、パルプの沈降を防止し見栄えの良い製品を作製できます。

懸濁安定性
フルイドゲル

フルイドゲルとは微細なゲルの集合体で、液体のように見える状態を指します。フルイドゲルの調整方法は最初に水を攪拌しながらジェランガムを加えます。次に、加熱攪拌を行い完全に溶解させます(LAジェランガムの場合はここで乳酸カルシウムを添加します。)最後にフルイドゲルとするために、冷却下で攪拌を続けるか、冷却してゲルを作製した後それを破壊します。 ジェランガムを使用したフルイドゲルは、食品では果肉など、パーソナルケアではスクラブ剤やパール顔料などの固形分の分散安定性・懸濁安定性に大変優れています。また、粘度が低いためスプレーが可能であり、アプリケーションとして応用できます。

フルイドゲル

食品への応用例

HAジェランガム
対象食品 使用量 使用効果
ゼリー 0.05~1.0% ゼラチン様テクスチャーのゼリーが作製できます。離水防止効果により安定性が向上します。
えん下困難者用ゲル化剤 0.1~0.8% 耐熱性を付与することにより、暖かい食事を固めることが出来ます。
和菓子 0.05~1.0% 澱粉様テクスチャーを持った和菓子を作製できます。
グミ、マシュマロ 0.1~1.0% ゼラチンの代替として使用可能です。製品の融点を高くすることが出来ます。
ジャム、フラワーペースト 0.05~0.5% テクスチャーを改良します。 耐熱性により温度安定性が向上します。
ヨーグルト 0.05~0.5% ゼラチンの代替として使用可能です。保水、保形性をアップします。
プリン 0.05~0.5% テクスチャーの改良。離水防止効果により安定性が向上します。
果汁飲料、乳酸飲料 0.01~0.05% 懸濁安定性を付与します。
コーヒー飲料、紅茶飲料 0.01~0.05% オイルリング浮上を防止します。
ドレッシング 0.01~0.2% 懸濁安定性を付与します。
ソース、タレ類 0.01~0.2% 懸濁安定性を付与します。
バッターミックス 0.01~0.5% 結着性を強くすることが可能です。
麺類 0.01~0.5% 配合する事で麺にコシを付与します。
LAジェランガム
対象食品 使用量 使用効果
デザートゼリー 0.2~0.7% 透明なゼリーが作製できます。また、耐酸性、耐熱性により安定性を向上できます。
えん下困難者用ゲル化剤 0.2~0.5% 耐熱性を付与することにより、暖かい食事を固めることが出来ます。
和菓子 0.1~0.4% 寒天の代替として使用可能です。ゲル力価が高いため少量の添加でゲル化します。
ジャム 0.2~0.4% 耐熱性により安定性を向上できます。
グミ 0.1~0.5% 耐熱性を付与します。 ゲルのセット時間の短縮が可能です。
デザート食品 0.1~0.4% 保型性を付与します。ゲル力価が高いため少量の添加でゲル化します。
小麦粉製品 0.1~0.2% 糖の結晶析出を防止します。つや出しの効果があります。
ペットフード 0.1~0.2% 結着性を強くすることが可能です。
バッターミックス 0.05~0.2% 結着性を強くすることが可能です。油分の吸収を防止します。
ソース類 0.05~0.2% 耐熱性により安定性を向上できます。
飲料 0.01~0.1% 懸濁安定性を付与します。

パーソナルケア製品への応用例

界面活性剤との相溶性

ジェランガムはアニオン性、両性界面活性剤と相溶性を示します。また、ジェランガムはアニオン性ポリマーですのでカチオン性界面活性剤の使用時に凝集する場合があるため、併用時には注意が必要です。

各種パーソナルケア用品への応用

HAジェランガム
対象化粧品 使用量 使用効果
ジェル 0.05~0.5% 少量の添加でジェルを形成できます。
乳液 0.05~0.1% 油分の分離を防止し、乳化安定性が向上します。
クリーム 0.1~0.5% 油分の分離を防止し、乳化安定性が向上します。
洗顔料 0.1~0.5% スクラブ剤などの固形物の沈降を防止します。
クレンジング 0.05~0.5% 油分の分離を防止し、乳化安定性が向上します。
クリーム状または 液状ファンデーション、 チーク、アイシャドー、 化粧下地 0.1~0.5% 懸濁安定性により、顔料等の粉末原料の凝集と沈降を防ぎます。また、ジェル状の剤型が作製でき、水々しい使用感の製品を作製可能です。
ヘアジェル 0.05~0.5% 少量の添加でジェルを形成できます。
ヘアワックス 0.05~0.5% 油分の分離を防止し、乳化安定性が向上します。
LAジェランガム
対象化粧品 使用量 使用効果
ローション 0.05~0.2% フルイドゲルとすることで、パール剤等の固形分の分散安定性を付与しながら、スプレー可能な製品を作製できます。
乳液 0.05~0.1% 懸濁安定性のため、乳化安定性が向上します。べた付きの少ない使用感の製品を作製できます。
クリーム 0.1~0.5% 油分の分離を防止し、乳化安定性が向上します。
ゲル石鹸 0.5~1.0% 固形剤として使用できます。型に流し込むだけで容易に石鹸が製造できます。
ヘアシャンプー、 ボディーソープ 0.05~0.2% フルイドゲルとすることで、スクラブ剤等の固形分の分散安定性・懸濁安定性を付与した製品を作製可能です。
クレンジングクリーム 0.05~0.5% 油分の分離を防止し、乳化安定性が向上します。
クリーム状または 液状ファンデーション、 チーク、アイシャドー、 化粧下地 0.05~0.5% 懸濁安定性により、顔料等の粉末原料の凝集と沈降を防ぎます。また、ジェル状の剤型が作製でき、水々しい使用感の製品を作製可能です。
スタイリング剤 0.05~0.5% 配合する事でスプレー後の液垂れを防止することが出来ます。軽い使用感の製品を作製できます。
ヘアワックス 0.05~0.5% 油分の分離を防止し、乳化安定性が向上します。