澱粉は、植物が光合成により根や果実、茎等に蓄積した炭水化物から作られます。日本国内でよく使用される澱粉(原料)には、コーンスターチ(とうもろこし)、ばれいしょ澱粉(じゃがいも)、かんしょ澱粉(サツマイモ)、タピオカ澱粉(タピオカ)等があります。
澱粉は幅広い分野で利用され、食品分野では麺やタレ、ソース等の主原料や増粘剤、安定剤等として使用されています。工業分野ではのりや段ボール等に、医薬分野では賦形剤等に使用されています。また、澱粉の構造や物性を改善した加工でん粉や澱粉を低分子化したデキストリン等も製造されています。

1.構造

澱粉はグルコースを構成単糖とし、グルコースがα1→4結合した直鎖高分子のアミロースと、α1→6結合した分岐高分子のアミロペクチンから構成されます。
澱粉に含まれるアミロースとアロペクチンの構成比率は、原料や品種により異なります。一例として、コーンスターチの場合、同じとうもろこし原料であってもデント種由来の澱粉(一般的名称:コーンスターチ)はアミロースとアミロペクチンの両方を含みますが、ワキシー種由来の澱粉(一般的名称:ワキシーコーンスターチ)はアミロースを殆ど含みません。このアミロペクチンの比率が高いほど保存安定性が良いことが知られています。

2.製造工程

原料によって工程は異なりますが、澱粉の大まかな製造工程を示します 。

製造工程

3.特性

溶解性

澱粉は結晶構造を持つため加熱による溶解が必要となります。澱粉を水中で加熱すると、粒子は吸水して大きく膨張し、粘り気のある糊状の溶液になります。この現象を糊化と呼びます。

保存安定性

糊化した澱粉溶液は、時間とともに外観が白濁したり、ゲルを形成する等、経時的に物性が変化します。この現象を老化と呼び、食品の離水やテクスチャー低下等の品質劣化の原因となります。米飯のモチモチとしたテクスチャーが、時間とともにパサパサとしたテクスチャーに変化するのも老化の一例です。
一般的にアミロペクチンの比率が高いほど澱粉の保存安定性が良いことが知られています。下の写真は、コーンスターチとワキシーコーンスターチの7%溶液を、調製した直後と室温に1日放置した後の外観を比較したものです。コーンスターチの溶液は1日経過するとかなり白濁するのに対して、ワキシーコーンスターチの溶液は1日経過後に僅かに白濁するものの、高い透明性を保っています。コーンスターチの溶液の方が速く白濁したのは、ワキシーコーンスターチよりもアミロースを多く含むため老化が速く進んだからだと考えられます。

コーンスターチ|ワキシーコーンスターチ

しかし、老化は悪い事ばかりではありません。この現象を活用して作られる食品の一つに春雨があり、糊化後の澱粉を冷凍処理で老化させる過程を経て作られます。老化させることで調理時の煮崩れが減り、付着性が抑えられます。また、この工程により春雨特有の硬くもろいテクスチャーが付与されます。

各種耐性

澱粉は、熱や酸、シェア、酵素等の影響を受けて粘度が低下します。喫食中に、お粥のとろみが無くなりシャバシャバになるのも、唾液中のアミラーゼにより澱粉が分解されるためです。

澱粉の老化抑制や各種耐性向上の方法として、各社より様々な素材や添加物を用いた解決策が提案されています。例えば、糖類添加による老化抑制や、澱粉そのものを加工すること(加工でん粉)による老化抑制や各種耐性向上等があげられます。その他にも、多糖類と併用することでも様々な効果が期待されますので、「6.多糖類との併用について 」の項目にてご紹介します。

4.加工でん粉

加工でん粉は、澱粉に様々な加工(物理的、酵素的、化学的)を施し、澱粉の一部構造や物性を改善したものです。それにより、澱粉の各種耐性や保存安定性、溶解性等が改善されています。加工でん粉のうち、加熱処理等の物理的加工を施した澱粉や酵素による加工を施した澱粉は食品として扱われます。他方で、化学的加工を施した澱粉は食品添加物として扱われており添加物表記が必要となります。

  物理的処理および
酵素的処理による加工でん粉
化学的加工による加工でん粉
取り扱い 食品 添加物
加工例とその特徴 アルファ化
冷水可溶化
架橋
耐酸性向上、耐熱性向上、耐シェア性向上等
湿熱処理
耐熱性向上、耐酸性向上、耐シェア性向上等
エステル化、エーテル化
保存安定性向上、糊化促進等
酵素処理
溶解性改善、甘味・テクスチャー改善、保存安定性向上等
酸化
透明性向上、フィルム性向上、保存安定性向上等

加工の種類や強度、加工処理の組み合わせは、用途や目的に合わせて選択されます。例えば、冷水に溶解し、酸によって粘度が低下しない澱粉が必要な場合、アルファ化処理と架橋処理を併用した澱粉が選択肢としてあげられます。

5.デキストリン

デキストリンは、澱粉を酵素処理で加水分解し、低分子化することで作られます。低分子化の指標としてデキストロース当量(DE)が用いられ、DEが0に近いほど澱粉の特性に近づき、DEが100に近いほどぶどう糖の特性に近づきます。DEにより溶解性や甘味、吸湿性、粘度、保存安定性等の特徴が異なり、DEが高いほど甘味は強く、溶解性が高くなり、粘度が低下する等の特徴を示します。
DEにより、水あめとマルトデキストリン、デキストリン等に分類されますが、一般的にDE10以下のものをデキストリンと呼びます。デキストリンは、味質の改善や保水性の向上、エネルギー付与、粉末食品の分散性向上等の目的で様々な食品に利用されています。

6.多糖類との併用について

多糖類を澱粉と併用した際に得られる主な機能をまとめました。

分野 主な機能
小麦粉加工品
(パン・小麦粉菓子等)
老化抑制、保水性向上、耐シェア性向上、テクスチャー改良、ボリュームアップ、作業性改善、酵素耐性改善等
デザート類
(ゼリー、プリン等)
老化抑制、離水抑制、耐シェア性向上、テクスチャー改良、耐熱性向上、凍結解凍耐性向上等
麺類 老化抑制、保水性向上、耐シェア性向上、テクスチャー改良、ほぐれ性・付着性改善等
タレ・ソース、ドレッシング類 老化抑制、耐シェア性向上、耐熱性向上、耐酸性向上、テクスチャー改良、乳化安定性向上、懸濁安定性向上、付着性向上等
フィリング類(フラワーペースト、カスタードクリーム等) 老化抑制、離水抑制、耐シェア性向上、テクスチャー改良、耐熱性向上等

上記表に記載した機能は、あくまでも一例であり、どのような多糖類を加えた場合にもすべての効果が良好に得られるわけではありません。最終製品のテクスチャーや味質への影響もありますので、実際の使用用途や製品設計に合わせて、検討することが重要になります。
ここで一例として、多糖類による澱粉の一部置き換え効果をご紹介します。澱粉をキサンタンガムもしくはグァーガム、タマリンドシードガムの各多糖類に一部置換して調製したホワイトソースを凍結解凍すると、次のような効果があります。

  • 粘度の安定化
  • 離水抑制
  • テクスチャー改善(ボディ感の向上)

添加した3種の多糖類の中でも、キサンタンガムはホワイトソースの粘度の安定化及び離水抑制の機能に優れています。一方で、タマリンドシードガムは、澱粉様の自然なテクスチャーを付与するため、テクスチャー改善(ボディ感の向上)の機能に優れています。
このように、多糖類を澱粉と併用することで澱粉主体の食品の品質改善や澱粉に無い特徴の付与が可能となります。

多糖類選択のポイントはこちら多糖類を活用した処方はこちら