測定手法のお話~粘弾性測定の実際 その3~

前回の豆知識では、バネやダッシュポットのモデルを用いて測定原理をロイドくんが講義しました。いよいよ、本命の動的粘弾性についてロイドくんがエコーちゃん、デントくんに講義を行います。果たしてご機嫌斜めになってしまったロイドくんは大丈夫なんでしょうか・・。

講義その6:波形のズレ?G’とG”??
ロイドくん:気を取り直して、大本命の動的粘弾性の話を始めるよ。

エコーちゃん:・・・さっきの私の発言、根に持ってる?

ロイドくん

そんなわけ無いじゃろ。さぁ始めるよ。これまで色々と原理の話をしてきたんじゃが、実際の「動的粘弾性」測定の装置は物質を上下に引っ張るタイプや、回転式の装置なんかが販売されているんじゃ。しかし、基本的な動作としては周期的な振動として変化を与えて、そこから得られる応答により測定を行なっておる。引っ張り式なら上下に振動し、回転式なら左右に振動を与え測定する。その他にも温度変化による物質の変化を追うのであれば、一定の周期の振動を与えながら温度を変化させて、応答の変化を測定するのじゃ。

エコーちゃん:ふぇー色々あるんだねー。けど、振動なんて与えたら、かえってややこしくならないの?

ロイドくん

それが、案外うまくいくんじゃよ。装置の形は色々あるが、基本は振動を与えて応答を測定しているだけなので、その挙動をさっきと同じバネとダッシュポットを利用してみてみようかの。

デントくん:よろしくおねがいしますっ!
豆知識10用画像1
ロイドくん

では、ここに様々なバネやダッシュポットを持つ、とあるサンプルがあるとしよう。これに対して、繰り返し押し込み、引き伸ばす振動運動を与えた場合を考えるんじゃ。一定の周期、変形量で押したり引いたりを繰り返すので、引き伸ばす力を上向き、押し込む力を下向きと考えると、横軸を時間とした①のような力の波形が得られるんじゃ。

デントくん:波形の真ん中の黒い線のところが、どちらにも力がかかっていない力が0になる部分ですね。

ロイドくん
その通りじゃ。この時、バネの部分は押せば押しただけ縮み、引けば引いた分だけ伸びるので、その変形を力と同じような波形にすると、②のように加えた力と同様の形を示すのじゃ。では、ダッシュポットの場合はどうなるかのぉ?

デントくん
ダッシュポットはゆっくり変形するから・・・しかも、力がなくなると勝手に止まってしまうので・・・与えた力とはズレた波形を示すんではないでしょうか?

エコーちゃん:おー!すごいねーデントくん。

ロイドくん
素晴らしい予想じゃっ!デントくんの言うように、ダッシュポットはバネと違って、力に対して瞬時に反応できんのじゃ。そのため、力が加わるとゆっくりと動き、力がなくなると動きが停止するので、ダッシュポットを押している間は押す力の増加に従って徐々に速度を上げながら動くのじゃ。次に押す力が最大になり引くことに転じた赤い縦ラインの点でも、力は押す方向にかかったまま弱まる過程の始まりになるので、速度を落としながらダッシュポットは押された方向に動く。さらに引く力を加えて、押すと引く力がゼロに戻るピンクの縦ラインの点まで進んで、やっとダッシュポットは変形が最大になって動かなくなるんじゃ。この点を過ぎれば、次は引く力しかかからなくなるので、ダッシュポットはやっと動きの向きが引く方向になるのじゃよ。

エコーちゃん:こうやって力の波形と変形の波形を並べると、ダッシュポットだけ変な動きをするんだねー。

ロイドくん
そうじゃな。けれど、ある意味ダッシュポットも規則正しい動きをしておって、さっき話したような力の受け方と変形をするので、加えた力の押して引いた動きの波形を1とすると、1/4だけずれた変形の波形を示すんじゃよ。まぁそれ以外にもダッシュポットならではの特徴があって、振動の周期(周波数)、つまり加える力の向きの変化させる早さによって、動きが変わるんじゃ。早く動かすには大きな力が必要じゃが、強い力を一気に加えても抵抗が大きいのでダッシュポットはあまり動かんのじゃ。

デントくん
波形として見ると、ダッシュポットは曲者ですねー。バネは素直に与えた力に合わせて変形して、ダッシュポットは加えた力から1/4だけずれた変形を示す理解で良いんですかー?しかし、この波形の違いがどのように粘弾性の測定につながるんだろぉ・・。

ロイドくん
実はな、動的粘弾性の測定結果としては、今説明した2種類の変形の波形を合成した波形が1つの結果として得られるんじゃ。さっき、粘弾性物質はたくさんの種類のバネやダッシュポットがつながったようなものだと話したじゃろ?そんなたくさんのバネやダッシュポットにまとめて同じように周期的な振動を与えて、それぞれから出てくる波形をぜーんぶ合成してしまうようなイメージが良いかのぉ。

エコーちゃん:ふぁー・・ぜーんぶまとめてドーンって感じだねー。

ロイドくん
まぁその理解で間違ってはおらんが・・・・その結果、粘性成分の無い完全弾性体を測定すれば加えた力と同様の波形が、弾性のまったく無い完全粘性体であれば加えた力から1/4だけずれた波形が得られ、粘弾性物質はその特性に従って、その中間の波形が得られるという訳じゃよ。

デントくん:おぉぉ。どんな性質を持つ物質でも、1/4の波形のズレの範囲の中に結果がおさまるってことですね。

ロイドくん
そうなんじゃ。得られた波形と加えた力のズレが小さければ弾性の性質が強く、逆にズレが大きければ粘性の性質が強いと判断できるのじゃ。そして、このズレの量から弾性の性質の強さや粘性の性質の強さを知ることが出来るというわけじゃ。

エコーちゃん:けど、波形がずれてるって言うだけじゃ、比べたり、性質の理解に使うには、わかりにくいよー。

ロイドくん
そこで、この波形のズレからとあるパラメーターを算出するんじゃ。メインとして使用するのがG’とG”というパラメーターでG’が貯蔵弾性率とも呼ばれ、弾性の強さ、つまり物質の固体的な性質を現す。一方、G”は損失弾性率といい、粘性の強さ、つまり物質の液体的な要素を表すのじゃよ。更にこの2つの数値の比を取ったものがtanδで正接損失といい、1より大きければ液体的で小さいとより固体的な物質と判断するんじゃ。

デントくん
なるほど!!豆知識10用画像2
測定結果が一気に数値になってきましたね!これで、どんな物質なのか考えやすくなりそうです。しかも、1回の測定で弾性の強さと粘性の強さがわかるなんて、とてもお得な感じがします。

ロイドくん
確かに、そうかもしれんのぉ。じゃが、まだまだこれからが本番になるんじゃが、実際の動的粘弾性の測定では、歪(ひずみ、変形)や応力(力)は同じまま周波数(変化の速度)を変更したり、一定の周波数のまま温度を変化させたり、様々な振動の加え方を行うことで、物質の性質を測定していくんじゃ。

エコーちゃん:ひえー。ここまででも、割とややこしい話だったのに、まだ変化させたりするのー??

ロイドくん
そうなんじゃ。最初のころにも話したが、動的粘弾性は物質を大きく破壊しないような微小な変化の領域で行う測定なんじゃが、試験の条件をアレコレ変更することで様々なデータが得られる優れた測定なんじゃよ。これ以上は、実際の例を交えたほうがわかりやすい話じゃから、いくつかデータを見ながら話をしようかのー。あんまり難しい話を長々と続けてもいかんしのー。

エコーちゃん:・・・・・やっぱり私の言ったこと、ズルズルと根に持ってるじゃないですかー。困ったおじさんだなー。

ロイドくん:・・・・。

なにやら不穏な空気で講義が終了してしまいましたが、動的粘弾性にまつわる測定原理の話は、今回の豆知識でひとまず終了するようです。
次回の豆知識は、少し違うお話をさせていただき、また改めてデータを交えた動的粘弾性のお話をする予定です。

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