多糖類の決まり事~食物繊維の熱量 その1「熱量の算出方法」~

 改めて詳細なエネルギー(熱量)の算出方法をご紹介します。平成27年12月24日付の消費者庁の通知<「食品表示基準について」の一部改正について>(消食表第655号)(1)に定められている熱量の分析方法は、食品表示法の別添資料である「栄養成分等の分析方法等」において定められています。修正アトウォーター法と呼ばれる方法で、詳細な設定の経緯や背景は省略しますが、タンパク質を4kcal/g、脂質を9kcal/g、炭水化物を4kcal/gとする係数を、定量した各物質に乗じたものの総和が熱量であるとされます。このうち、炭水化物については糖質と食物繊維の総和を用いて計算することとされており、糖質は炭水化物同様に4kcal/gが係数として設定され、その他にアルコールは7kcal/g、有機酸は3kcal/gが係数とされています。
 食物繊維は別途設定されている「食物繊維のエネルギー換算係数」を用いることが定められています。以下にその換算係数を示します。(1)

食物繊維素材名 エネルギー換算係数(kcal/g) 
寒天
キサンタンガム
サイリウム種皮
ジェランガム
セルロース
低分子アルギン酸ナトリウム
ポリデキストロース
 0
アラビアガム
難消化性デキストリン
ビートファイバー
 1
グァーガム(グァーフラワー、グァルガム)
グァーガム酵素分解物
小麦胚芽
湿熱処理でんぷん(難消化性でんぷん)
水溶性大豆食物繊維(WSSF)
タマリンドシードガム
プルラン
 2

 
上記に記載のない食物繊維については、以下の様な食物繊維のエネルギー換算係数の設定に関する考え方に従うとされています。

  ①大腸に到達して完全に発酵されるものは2kcal/g とする。
  ②発酵分解を受けない食物繊維は、原則として0kcal/g とする。
  ③人を用いた出納実験により発酵分解率が明らかな食物繊維については、以下による。
    ・発酵分解率が25 %未満のもの      :0kcal/g
    ・発酵分解率が25 %以上、75 %未満のもの :1kcal/g
    ・発酵分解率が75 %以上のもの      :2kcal/g 

  上記、①~③にも当てはまらない素材については2kcal/gとすることが定められていますので、食物繊維は最大でも2kcal/gとなる訳です。その他にも、このような特別な係数が用いられる物質として糖アルコールや難消化性オリゴ糖のような難消化性糖質が挙げられます。この難消化性糖質のエネルギー換算係数は以下のようになります。(1)

 難消化性糖質  エネルギー換算係数(kcal/g)
エリスリトール
スクラロース
 0
ソルボース
マンニトール
ガラクトピラノシル(β1-3)グルコピラノース
ガラクトピラノシル(β1-6)グルコピラノース
ラクチュロース
イソマルチトール
パラチニット
マルチトール
ラクチトール
ガラクトピラノシル(β1-6)ガラクトピラノシル(β1-4)グルコピラノース
ガラクトピラノシル(β1-3)ガラクトピラノシル(β1-4)グルコピラノース
ガラクトシルスクロース(別名 ラクトスクロース)
ガラクトシルラクトース
キシロトリオース
ケストース
ラフィノース
マルトトリイトール
キシロビオース
ゲンチオトリオース
ゲンチオビオース
スタキオース
ニストース
ゲンチオテトラオース
フラクトフラノシルニストース
α-サイクロデキストリン
β-サイクロデキストリン
マルトシル β-サイクロデキストリン
 2
ソルビトール
テアンデオリゴ
マルトテトライトール
キシリトール
 3

 
 最近、使用が特に増加し特定保健用食品(トクホ)の関与成分として最も許可されている(2015年12月現在)難消化性デキストリンも、上記の係数に照らせばエネルギーを持つ物質になります。しかしながら、「カロリーゼロ」等の表記が掲載されていることが多いのは、エネルギーが製品100g(ml)あたり5kcal未満であれば、成分を含まない旨を表示可能とされているからです。糖類や糖質にも同様の基準があるのですが、このあたりは別の機会にお話させていただきたいと思います。 

本稿で述べた内容については、2016年3月現在で確認できる情報をもとに作成しています。しかしながら、食物繊維の定義や分析方法等はすべての物質に対して普遍的に定量が行える試験方が確立されておらず、今も様々な方法が検証され、提案されています。また、食品表示基準の通則の中にも、規定以外の方法であっても、規定法と同等以上の真度や精度がある場合には、その方法を用いることが可能である旨が記載されています。つまり、規定の方法では正しく定量できない場合には、他の方法によって定量できるという柔軟性のある内容であるといえます。そのため、食物繊維の測定や表示方法に関しては、最新の情報収集に努め、最適な手法や適切な表示が出来るようにすることが重要となります。

 また、換算係数の考え方は発酵が重要なキーワードになります。食物繊維の換算係数の考え方の部分でも記載しましたが、食物繊維や難消化性糖質は消化ではなく、発酵でエネルギーを発生します。そのため、通常の糖質とは経路が異なることで、血糖値の上昇や体重増加への影響は非常に低いとされています。次回の豆知識では、この発酵による熱量の考え方について、食品表示の基準も交えてご説明します。

引用文献
1) 平成27年12月24日付の消食表第655号消費者庁次長通知 別添「食品表示基準について」第三次改正版
その他、食品表示に関わる最新情報は、消費者庁HP(http://www.caa.go.jp/)で入手、ご確認をお願いします。

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