測定手法のお話~動的粘弾性測定データのご紹介 その1~

動的粘弾性測定の原理については、以前の豆知識で3回にわたってお話しました。そこで、今回は動的粘弾性を実際の多糖類溶液で測定した結果を交えながら、得られるデータのお話をしたいと思います。動的粘弾性を測定する装置は大きく分けて、固体試料の測定に向いた引張り測定(伸長変形)と液体試料の測定に向くずり測定(せん断変形)があります。多糖類を用いた製品の測定ではほとんどの場面でずり測定が行われますので、本稿ではずり測定で得られる結果に関してお話いたします。

 さて、ずり測定による動的粘弾性測定と一口に申しましても、その測定手法は様々なものがあり、測定のパラメーターを変更することで多くの情報が得られます。しかしながら、測定の基本は線形領域における微小な変化に対する応答を測定することにあります。では”微小な変化”とは、どのくらいの変化を指すのでしょうか?

 そこで、まずは測定する試料の線形領域を求めることから始めたいと思います。一般的には線形領域は試料に与える歪(ひずみ)で考えることが多く、歪は”変形した長さ”と“基準の長さ”の比であるため単位がなく、多くの場合%で表示されます。ずり測定であれば、測定に使用するプレートと測定台の隙間と歪の変形の比になります。この歪を試料に対して徐々に大きくしながら与え、弾性率を測定することで線形領域を求めます。以下に0.5%濃度のキサンタンガム溶液に対して、徐々に歪を大きくしながら与えた場合の結果を示します。
豆知識14画像1 上記のグラフは、横軸に歪の変化を取り、縦軸に貯蔵弾性率G’(青線)、損失弾性率G”(赤線)、正接損失tanδ(緑線)を取った結果になります。ここで、歪が0.01~0.2%程度の範囲では弾性率は歪に依存せず一定値を示しており、この領域が歪の線形領域となります。一方で、歪が0.2%を越えたあたりから弾性率は歪の変化に依存しており、この領域は非線形領域であり、構造破壊が始まっていると考えられます。
 線形領域で得られるG’、G”の値や構造破壊が発生する際の歪値はその試料の物性によって異なります。食品の場合、G’値が高いほど「硬い」、又は「ゲル様」の食感が強くなるといった報告や、構造破壊が始まる歪値が低いほど“口溶けが良い”とする報告がされています。 

 線形領域が判明しましたので、その線形領域を超えない歪を用いて周波数依存の測定を行ってみましょう。最初の歪依存測定により、歪の線形領域は大まかに0.2未満だと判明しました。このため、今回の場合は線形領域内である、歪=0.1での測定で実施しました。周波数(Hz)とは1秒間に振動する回数を表しますので、非常に大雑把な言い方をすれば試料に歪を与える速度を表しています。つまり、周波数が小さい場合には試料をゆっくりと変形した場合の測定となり、大きな周波数では素早く試料を変形させた場合の測定になります。動的粘弾性測定において、この周波数依存測定は、粘弾性挙動の時間スケールの評価に用いられます。一般的に高周波数域では短期の、低周波数域では長期の静置状態における安定性を表すといわれています。以下に0.5%濃度のキサンタンガムとグァーガムの溶液に対して、線形領域の歪で周波数依存性測定を行った結果を示します。
豆知識14画像2 上図のグァーガムのようにG’、G”が周波数に依存し、周波数の変化と共に交差する(G’とG”の数値の大小が入れ替わる) 時、「濃厚溶液型挙動」と表現されます。ちなみに常にG”の値が高いような溶液は「希薄溶液型挙動」と表現します。これらの溶液型挙動を示す液体は、静置した状態であっても液が流動性を持つことを示しています。つまり長期の安定性を示す低周波域においてG”の値の方が強く、ゾル状であるために液がゆっくりと動けるということです。一方で、キサンタンガムのように周波数が変化した場合にもG’の値の方が高いままで、G’とG”が交差せず、ほぼ並行に推移するような液を「弱いゲル型挙動」といいます。弾性率に若干の周波数依存性がありますが、弾力性を表すG’の方が高い値を示すことから、短期的にも長期的にも静置した状態で溶液がゲルのように振舞い、流動性がほとんどありません。その結果として高い懸濁安定性を示しますが、実際にゲル化している訳ではなく、一定以上の力によって流動性を示すようになります。歯磨きペーストやクリーム、マヨネーズなど、保形性や懸濁安定性が良好な製品の多くはキサンタンガムと同じ弱いゲル型の挙動を示します。このように、線形領域のG’、G”を測定することにより、溶液の挙動が明確となり、試料の保形性や懸濁安定性を評価する指標となります。その他の測定結果として、周波数依存性がなく常にG’の値が一桁以上G”よりも大きな数値を示すような場合には、その試料は「真のゲル」や「弾性的ゲル」と呼ばれます。

 ここまでは、溶液の動的粘弾性測定に関するご紹介を行いました。次回(2016年8月10日予定)の豆知識では、ゲル化に関する測定についてご紹介します。

BACK TO TOP

サイト会員さま募集中!会員にご登録いただくと、多糖類のさまざな情報をご覧いただけます。是非、ご活用下さい。

● 処方
各種食品、パーソナルケア製品向けに
多糖類を使用した応用処方を用意しております。
● 多糖類選択のポイント
アプリケーションと物性の観点から
使用する多糖類を選択する際のポイントをご紹介します。