測定手法のお話~動的粘弾性測定データのご紹介 その2~

前回の豆知識では、溶液に対する動的粘弾性測定の結果をご紹介しました。そこで、今回はゲル化に関する測定手法についてご紹介いたします。

 以下に、0.5%濃度のネイティブジェランガム溶液の温度依存性について測定したデータを示します。一般的に、ネイティブジェランガムは水に分散し、加熱溶解した後に冷却することでゲル化する特性を示します。
豆知識15画像1 この測定では、歪(ひずみ)、周波数を一定値とし、温度を5℃/分の速度で90℃から25℃まで変化させた場合(グラフでは右から左への変化)の弾性率を測定しています。貯蔵弾性率G’と損失弾性率G”の関係から緑の円で囲った高温域では、G”の値の方が高く溶液としての挙動が強く示されており、ゲル化していないことが確認できます。一方で、赤い円で囲った低温域ではG’の値の方が高く、弾性体としての挙動が強く示されていることからゲル化していると考えられます。この時、G’とG”の値が交差する70℃前後の点を簡易的に一種のゾル-ゲル転移点として捉える場合があります。ただし、この数値は温度変化速度による影響を受けやすく、ゲル化が遅い試料では到達した温度とゲル化にズレが生じることがあるため、正確な値であるとは断言することはできません。また、G’の値が急激に上昇を始める温度をゲル化温度とすることも多く、様々な試料を比較する際には、条件や基準をそろえて試験を行うことが重要です。その上で、評価基準についてデータと併せて明確に提示する必要があります。

 続いては、ゲル化する速度の測定例をご紹介します。以下に、冷却することでゲル化する1%濃度のタマリンドシードガムと50%糖の相乗性によるゲルを測定した結果を示します。
豆知識15画像2
 上記の測定では、周波数、歪、温度(5℃)はすべて一定のままで時間経過による溶液の弾性率の変化を測定しています。測定を開始した直後はG”の値が大きく溶液的な性質が強いですが、時間の経過と共にG’、G”が共に上昇し、6分を過ぎたあたりでG’の方が大きくなり弾性体としての挙動が強くなったことでゲル化したと考えられます。同様の測定を様々な温度で測定すれば、温度毎のゲル化速度を比較することも可能です。

 ここで示しました測定方法は、動的粘弾性測定で取得できるデータのほんの一例となります。それ以外にも非常に多くの情報を得ることができますが、単純に動的粘弾性のみで得られたデータから、製品の性質、テクスチャー、使用感を類推することは困難です。実際の食品や化粧品等の製品では様々な原料が影響を及ぼすことから、実際に試料で起きる現象やその他の試験で得られるデータも活用して、評価に用いる必要があります。

 また、動的粘弾性の測定では、わずかな測定条件の変更により、得られる数値データが大きく変化する場合があります。温度依存性であれば昇温速度が1℃違ったり、歪の量が1%変わるだけでも試料の性質によっては得られるデータが大きく異なることがあります。そのため、試験の際にはしっかりした条件検討と、動的粘弾性測定を実施する目的を明確にして試験を行うことが非常に重要です。
 例えば、最後にご紹介したゲル化速度の測定では、動的粘弾性を測定する装置に試料をセットする準備段階から均一な条件で実施できる方法を検証する必要があります。冷却することでゲル化が促進されるため、溶液を準備してから装置にセットするまでの時間や手順、温度変化の履歴が異なれば、最終的な結果に大きな影響を及ぼします。仮に上記と同じ試験でも、装置にセットするまでに10分以上の時間を要してしまえば、試験開始時点でゲル化していることになりゲル化の様子が観察できません。
 その他にもチキソトロピー性を示す溶液の測定では、溶液の準備方法が変われば測定結果も変化してしまうことが容易に予想されます。チキソトロピー性を示す溶液は1度構造が破壊されると回復に時間がかかりますが、装置に試料をセットする際に構造の破壊が伴います。そのため、装置に試料をセットしてから十分な構造回復の時間を設けないと、その試料の持つ特性を正しく評価することが出来ません。

 以上のように動的粘弾性測定では最終的な数値結果の取得よりも、最適な試験条件の検討に多くの時間やテクニック、経験が必要になります。しかしながら、非常に多くの情報を得ることが出来る優れた測定であるため、活用すれば非常に有益な測定方法になります。少しとっつきにくい測定方法かもしれませんが、これまでの豆知識でご紹介した内容が少しでも皆様の助けになれば幸いです。

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