皆さんが「ゲル化」と聞いて、真っ先に思い浮かべるものといえば、ゼリーではないでしょうか?その他にも、固める・・・という効果を利用して多糖類は様々なジャンルに使用されています。また、直接はゼリー状にならなくとも多糖類はゲル化する際に、分子同士の相互作用によりつながる事で、網目のような様々なネットワークを作り出します。そのネットワークがもたらす効果を期待して使用される場面もあります。そんなゲル化の作用が起きるとき、多糖類はどのような挙動をしているのでしょうか。

ゲル化

ゲル化とは?

非常に大雑把に説明すると、水を多く保持する多糖類溶液は、多糖類の濃度の増大に伴って粘度が上昇し、ついにはゲル化(ゼリー化)します。液体中の多糖類濃度が濃くなると、その中に含まれる多糖類分子同士が自由に動けなくなります。このとき、多糖類分子が絡まりあい、分子同士がくっつくことで網目のような構造が作られ、ミクロな空間が多くできます。構造ができることで、液体は流動性を失い、網目構造の空間内には水が包まれるので、多量の水を保持することができるのです。 つまり、溶液中にバラバラに存在していた多糖類が、部分的に結合(架橋)することで、その部分を基点として網目状ネットワークを構築し、溶液全体がゲルになるといわれています。この結合した点を架橋点とも表現します。 右記写真の左側は、ゲル化したカラギナンの構造の電子顕微鏡写真です。このように多糖類同士がお互いに結合し、網目構造を構築することでゲル化しています。一方、右側の写真のようにそのままではゲル化しないタマリンドシードガムの場合には、構造をとらず多糖類がバラバラに存在しています。 このような網目状のネットワークがゼリー以外の分野にも様々な効果を生み出す要因となっています。

澱粉、寒天、ペクチンなどのゲルは、上記に記したような均一に分散した流動性のある液体を冷却して作られます。高温の液体状態では、多糖類分子がランダムな状態で分散していますが、温度の低下と共に、分子間の相互作用が著しく上昇し、分子鎖同士が絡まりあい、架橋点ができることで網目状構造を形成します。 このような架橋点は水素結合を主としており、その他にイオン結合、共有結合、疎水結合など色々な結合力によって生じています。一方で、メチルセルロース等は、加熱することでゲルとなり、冷却すると再び液状になります。メチルセルロースは水溶液中では水と結合することで溶解していますが、高温度になると熱運動のために水和状態が減り、疎水基の結合が起きることでゲル化するといわれています。その他にカードランも加熱によって不可逆性のゲルを生成しますが、これは加熱によって分子構造の変化が起こり、分子間にネットワークを形成することで起きると考えられています。

一般的なゲル化に用いる多糖類の特性を以下の表にまとめました。 以下の表は、あくまでも1例です。同じ多糖類であっても製品のグレードやメーカーによって違いはありますし、反応性も異なりますので、注意してください。

ゲル化に使用される多糖類のゲル化特性優れている > ◯ > △ > ✕ > 劣る
名称 溶解温度 (℃) ゲル化要因 ゲル化温度 (℃) ゲル再溶解温度 (℃) 耐熱 耐酸 耐凍結 解凍
寒天 90 加熱-冷却 30-45 85-95
ゼラチン 50-60 加熱-冷却 15-25 25-35
カラギナン 70 溶解 →冷却、陽イオン、 ガラクトマンナン等 40 50-70
LMペクチン 80 加熱溶解 →2価陽イオン 50-60 100℃以上
HMペクチン 80 酸 高い可溶性固形分 60-80 70-90
LAジェランガム 90 加熱溶解 →陽イオン 30-40 100℃以上
HAジェランガム 85 加熱-冷却 70-80 75-90
アルギン酸ナトリウム 室温 溶解 →2価陽イオン   100℃以上
キサンタンガム+ ローカストビーンガム 80 加熱-冷却 40-60 50-70
タマリンドシードガム 85 糖、アルコール、 ポリオール等 40-70
カードラン 50 (膨潤) 80℃以上 80
60℃加熱-冷却 40 60

※本表は、代表的な例を示したものであり、その他の含有物や多糖類の製品、グレードによって結果が異なる点に、ご注意ください。

このように、一口にゲル化といってもその要因や、ゲル化を開始する温度は様々であることがお分かりいただけると思います。これらを製品の特長や製造設備、ゲル化させる溶液の含有成分などを考慮して、多糖類を選択してください。

ゲル化の秘密

さて、このような様々な条件でゲルを形成する多糖類ですが、どのようなメカニズムでゲル化が起こっているのか、少し詳しく見てみましょう。 先ほど、ゲル化する際には、部分的に結合することで網目構造が作られると述べましたが、そのメカニズムとして、一般的に以下のモデルが提唱されています。

  • 2重らせんモデル(カラギナン等)
    ① 2重らせんモデル(カラギナン等)

    多糖類の高分子が、無秩序に存在している状態から、それぞれがらせん構造をとって立体的な網目構造、結合領域を作ることでゲル化します。複数のらせん構造が凝集するとさらに強固なゲルになります。

  • エッグボックスモデル(アルギン酸ナトリウム等)
    ② エッグボックスモデル(アルギン酸ナトリウム等)

    イオンが分子同士の会合を促進し、立体的な構造を形成します。その際、イオンが橋渡しを行って分子同士を結びつける構造をエッグボックスと呼び、使用されるイオンの量や種類がゲルの強度や物性に大きく影響します。

  • 分子間相互作用モデル(キサンタンガム-ローカストビーンガム等)
    ③ 分子間相互作用モデル(キサンタンガム-ローカストビーンガム等)

    それぞれ単独ではゲル化しない成分を混合することで、お互いに作用して立体的な構造を作り、ゲル化します。

  • ④ 糖や酸を利用した水素結合モデル(タマリンドシードガム、HMペクチン等)

    水素結合による分子の会合により起こるゲル化は、糖やアルコールの存在による水分活性の低下や、酸性条件による電気的反発力低下により、水素結合が強化され、より分子鎖が強く結合されることで網目構造が形成されます。

  • ⑤ 加熱によるゲル化モデル(カードラン等)

    多糖類の加熱によるゲル化は、疎水結合が関与してゲル化すると考えられています。 代表的な加熱によりゲル化する多糖類としては、カードランやメチルセルロースが挙げられます。

ゲルの作り方

一般的なゲルの調製方法

水和・溶解→加熱→必要に応じたゲル化因子(イオン、酸、糖など)の添加→冷却、となります。 ここで、ポイントとなるのが加熱とゲル化因子の添加です。多糖類をゲル化させたい場合、各種ゲル化に用いる多糖類に応じた温度まで加熱した後に冷却することが重要となります。これは、加熱によって分子の配列を一旦バラバラにしないとうまく均一なゲルを形成できないからです。その他にもイオンや酸などのゲル化因子を投入する際には、入れるタイミングや溶液の温度、適切な添加量を加えないとゲル化しなくなったり、不均一なゲルとなり、所定の能力を発揮しないこともあるため注意が必要です。

最後に、ゲル化を行う仕上げの段階でもある冷却ですが、この段階で多糖類はしっかりとしたネットワークを構築していく作業を行っている状態です。右図は、ネットワークを構築する際の分子の挙動を、簡略な模式的にしたものです。 ネットワークを構築中に、激しく攪拌したり揺らしてしまうとネットワークが上手に構築できず不均一になってしまうため、静かに見守ってください。 また、ゲル化する速度も多糖類によって異なります。ゲル化因子を投入した瞬間にゲル化が始まるものから、非常にゆっくりとゲル化するもの、冷蔵状態まで冷やすことで徐々にゲル化が始まるものなど様々です。冷やす速度についても、多糖類の種類によってはゲルの出来上がりに影響を与えます。耐熱性のない多糖類を用いた場合には、加熱が終了し容器に充填した後、直ちに冷却しないと強度が低下する可能性がありますし、逆にゆっくりと冷やさないと十分にゲル化できないものもあります。こういった特性も、ゲル化させる多糖類を選択する際のポイントとなりますので、十分にご注意ください。

ゲルの評価方法

ここまでゲル化のメカニズムやゲルの作り方を述べましたが、出来上がったゲルはどのように評価すればよいのでしょうか? テクスチャー、見た目など様々な評価がありますが、評価基準があいまいになることも多く、「固い」や「やわらかい」の基準も人により様々なため、なかなか意見を合わせられないことがあります。そこで、1つの評価基準としてゼリー強度がよく用いられます。

この測定方法は、様々な装置がありますが、基本的な原理としては右図のようになります。つまり、一定の力(速度)で対称のゲルを押して(引っ張って)、そのゲルが壊れたポイントでのゲルからの応力や変形量からゲルの特性を評価します。このとき、ゲルに力を加える部分の形状を変えることで、様々な状況を想定した測定が可能になりますが、得られる数値も異なるため、条件を明記したほうがスムーズにテクスチャーの比較を行うことができます。

この測定により得られる結果の一例を示します。このグラフでは、横軸にゲルの変形量、縦軸に応力をとり、グラフのピークの点をゲルが壊れたポイント(破断点)としています。この破断点の結果と、実際のゲルのテクスチャーをすり合わせた結果がグラフのようになります。つまり、固く脆いものは破断点の応力が高いが変形量が少なく、弾力があるゲルはなかなかゲルが壊れないため変形量が大きくなります。この測定方法では、ゲルの多彩なテクスチャーのすべてを測定することは困難であるものの、大まかな特性をつかむことが可能です。

どんな多糖類を使えば良いのか?

実際にゲル化向け多糖類を選択するポイントには、「熱や酸への安定性」「糖、pH、イオン、たんぱく質等の他成分条件」、そして最後に重要となるのが、「外観、テクスチャー」です。 熱や酸への安定性は、加熱工程が多くの場合に必要となるゲル化では、最終製品への影響が大きいため、重要となります。特に酸性条件で加熱を行うような過酷な条件下では、多糖類の構造が壊れてしまうこともあるため注意が必要です。 次に「糖、pH、イオン、たんぱく質等の他成分条件」ですが、ゲル化の因子でもあるこれらの成分は、当然ゲルの状態や溶解性にも影響を及ぼします。そのため、ゲル化させるためだけの目的で添加する場合にはコントロールが可能ですが、こういった成分を含む液を固めるような用途の場合には、影響を受ける事を考慮にいれたゲル化剤の選択が必要になります。

最後に「外観、テクスチャー」ですが、ゼリーのような製品に多糖類を使用する場合に最も重要なのではないでしょうか。 透明なのかそうではないのかといった外観はもちろん、使用する多糖類やゲル化させる因子によってテクスチャーも様々なものになります。 では、食感の大きく異なるゲルを比較してみましょう!下記の動画をご覧ください。

多糖類のテクスチャー
  • 固いゲル

  • やわらかいゲル

  • 弾力のあるゲル

ご覧のとおり、固いゲルは弾力も少なく、切った断面がそのまま見えるような物性を示します。やわらかいゲルは弾力もありながら、弱い力で切断できる様子が確認できます。一方、弾力のあるゲルは非常にプルンとしており、上手に切れないほどの弾力を示します。

一般的なゲル化に用いる多糖類のテクスチャーの違い

その他の一般的なゲル化に用いる多糖類のテクスチャーの違いを比較した表を示します。 テクスチャーとは、喫食した際の食感や肌触りなどの感触のことで、硬さだけでなく、粘性や付着性、弾力などの感覚を指します。 このようにゲル化では、様々なテクスチャーを作り出すことができます。その他にも、ゲルにとって離水が問題となる場面が多く、様々な離水防止策がとられます。しかし、離水が多いゲルも悪い面ばかりではなく「みずみずしい」や「フレーバーリリースが良い」などの良い評価につながることもあります。こういった様々な特性やテクスチャーを踏まえて目的に合わせた多糖類を選択してください。

グラフ:一般的なゲル化に用いる多糖類のテクスチャーの違い