安定化と一口に言っても、懸濁安定性や乳化安定性など、様々な作用が挙げられます。そこで、安定化作用の代表的な例を紹介すると共に、その簡単な機構を説明します。

懸濁安定効果

懸濁安定効果は、溶液中に含まれる不溶性成分が均一に分散した状態を長期間保持する作用を指します。液中に浮遊している沈降性の物質だけでなく、存在する液よりも、比重の軽い物質の浮上にも効果を発揮します。 粒子の沈降速度は一般的には、粒子が小さいほど、粒子と液体の比重差が小さいほど、また液体の粘度が高いほど、遅くなるといわれています。そこで、多糖類のもつ粘度を付与する効果により、不溶性の粒子の懸濁状態を安定化させるのです。 つまり、粘度が高いほど懸濁安定効果は高くなるのですが、粘度が高くなりすぎると肌触りやテクスチャーの変化、流動性の低下が考えられます。

しかし、多糖類の中には単純な粘度による効果だけではなく、非常に弱いゲル状態を利用して効果を発揮するものがあります。ジェランガムやキサンタンガムの効果がその1例で、注ぎだしや塗布時には低粘度ですが、静置している状態では高い懸濁安定効果を示すため、テクスチャーへの影響が少なくなります。一方で、微結晶セルロースは水に完全には溶解しない多糖類ですが、粒子が膨潤し、右図のような互いに網目状のネットワークを生み出すことで水中に分散・浮遊し、懸濁安定効果を発揮します。この効果は、ドレッシングや飲料など様々な分野で利用されています。

懸濁安定効果 図:懸濁安定効果

乳化安定効果

乳化とは、広義の意味で、決して交じり合わないもの同士がどちらかに均一に分散した状態のことを指します。たとえば、右の写真のように水と油を1つの容器に加え激しく攪拌すると、溶液が白濁し一見均一な液に変化しますが、しばらく静置すると、再度攪拌前の水と油の2層に分離してしまいます。しかし、攪拌方法を強力にしたり、乳化剤と呼ばれる水と油の境目に作用して表面張力を下げる物質を加えることで、均一な状態のままで安定化させることができます。この状態を乳化といいます。下記に水と油における乳化と分離の模式図を示します。

多糖類の構造・構成
図:O/W型エマルションの解乳化

多糖類は主にこの乳化を安定化する効果を発揮します。さて、その効果のメカニズムですが、2通りの方法があります。 1つは、懸濁安定効果と同様に、ある液中に分散している乳化粒子を粘度や多糖類同士の網目状ネットワークで自由に動けなくすることで安定化させる効果です。乳化粒子は、自由に動き回ることで、他の乳化粒子とくっついてより大きな粒子となったり(合一)、乳化粒子が液中で上昇や沈降することで溶液内が不均一な状態となったり(クリーミング)します。合一+クリーミングは、乳化が解消されるきっかけとなってしまうので、多糖類の粘度等の力で、乳化粒子が自由に動くことを妨げ、安定化させるのです。

もう1つは多糖類が溶液中に分散している乳化粒子側の液表面に保護膜を形成することで、乳化粒子同士が結合して巨大化することを防ぐ効果を発揮します。この皮膜を形成する能力は多糖類の種類によって効果が異なり、その影響で乳化粒子の大きさにも影響します。下表はその効果の一例です。 こういった働きは、液中の泡沫の安定化にも同様に作用するため、乳化安定化だけではなく、泡沫安定化も付与することができます。

安定剤の性質 キサンタンガム アラビアガム タマリンドシードガム グァーガム カラギナン
粘度
油粒子
乳化安定性
耐酸性
添加量 0.2~0.3% 20~30% 0.5~1% 0.5~1% 0.2~0.3%
主な用途 ドレッシング 乳化香料・ 医薬 ドレッシング・ 冷菓 冷菓 ドレッシング・ 冷菓

氷結晶安定効果

多糖類が水に溶解すると、水分子が多糖類と結合して結合水になることがあります。その結果、多数の水分子が多糖類周辺に存在することになります。これらの水分子や結合水は凍りにくく、また凍った場合にも大きな塊とはならず、きめ細かな氷の結晶となります。これが多糖類による氷結晶安定効果です。この効果は主に、冷菓の分野で活用されています。右図はアイスクリームの構造モデルです。 氷結晶が大きくなると、ざらつくような食感となり、アイスクリームのおいしさに影響を及ぼします。そこで、多糖類を加えることで滑らかなアイスクリームを作ることができます。また、多糖類がもつ粘性やゲル化の能力によって、保形性や口解けの改善効果も期待されます。

図:氷結晶安定効果

どのような多糖類を使えばよいのか?

安定化効果に関していくつかご紹介しましたが、この他にも多糖類は様々な効果で安定化に寄与します。そのため、安定化効果を得るために多糖類を選択する際には、「何をどのような状態で安定化させるか」によって多糖類選択のポイントが大きく変化するので注意が必要です。その上で「熱や酸への安定性」や「糖、pH、イオン、たんぱく質等の他成分条件」がポイントとなります。
安定化させるために選択した多糖類が熱や酸に弱いと、多糖類が所定の効果を発揮できず、期待通りの結果を得ることができません。また、時間の経過に伴い、熱や酸の影響で効果が低下してしまえば、安定化したとは言いがたい結果となってしまいます。また、糖、pH、イオン、たんぱく質等の他成分条件は多糖類の溶解性やその効果に大きく影響を及ぼします。安定化の効果を得るために使用する多糖類には、特定の成分や条件を揃えることで高い効果を発揮するものもあります。こういった多糖類は、条件がそろった場合には高い効果を発揮しますが、それ以外の条件では機能しないこともあるため、注意が必要となります。
最後に最も重要な点が、「最終製品のテクスチャー」です。極端な例では、果肉が含まれた飲料に多糖類を多量に加えてドロドロの状態にすれば、見た目には果肉が沈まずに分散した状態で安定した飲料を作ることができます。しかしながら、食感は非常にネバネバとして飲みにくい事が予想されるため、安定化できたとしても、製品としては不適であることが容易に想像できます。このように、最終製品に求める使用感、肌触り、テクスチャーの範囲の中で、適切な効果を発揮できる多糖類を選択する必要があります。