多糖類を使用する場合、多くの場面で多糖類を水系に溶かして使用します。ところがこの多糖類を水系に溶かす行為、これが曲者なのです。
多糖類は非常に親水性が高く、水和しやすい物質ですが、それゆえに、一気に粉末を水へ投入してしまうと、きれいに溶かすことができません。右の写真のようにダマと呼ばれる、溶けきらない粉の塊が水の中に発生し、十分に多糖類の機能を発揮できません。
ダマとは多糖類が水系に分散する前に水を吸ってしまい、粉の塊の表面だけが水和した状態を言います。このとき、表面の水和した部分が壁となり、まだ水と接していない粉の塊の内部へ水が浸透しにくくなることで多糖類が十分に溶解できなくなってしまいます。

多糖類を十分に水和・溶解させる詳細な方法は別項(使い方)を参照していただき、ここでは水和・溶解の簡単な方法と、ポイントについて述べていきます。

写真:ダマ

溶解のポイント

十分な溶解にとって重要なポイントは、

①分散させる

②十分に撹拌する

③加熱を行う

以上3つになります。

①分散させる

ダマは多糖類粉末を水系に投入する際に、粉末が塊状のまま水に触れることで発生します。そこで改善策として、多糖類の粉末を水系に投入する前に、その他の溶解しやすい原料粉末や多糖類がほとんど溶解しないアルコールや油等の分散剤と十分に混合してから水系に投入することで、ダマの発生を抑えることができます。


  • 分散剤なしの溶解

  • グラニュー糖を分散剤として使用した場合

  • エタノールを分散剤として使用した場合

上記は実際に、各種分散剤(グラニュー糖、エタノール)を用いて粉末を溶解した様子です。分散剤を用いずに一気に投入すると大量のダマが発生しますが、分散剤を使用することで、きれいに溶解させることができます。
多糖類とその他の成分を混合することで、多糖類同士の間に他の成分が存在する状態となり、多糖類を十分に分散した状態で水系に投入できるため、ダマはほとんど発生しません。

②十分に攪拌する

多糖類を水系に均一に分散させただけでは、十分な効果を発揮できていないことが多々あります。右の写真は、一見大きなダマは存在しませんが、溶解が不十分であり、多糖類の機能が十分に発揮されていません。
多糖類粉末の中で多糖類分子は、絡み合った状態で存在していると考えられています。
多糖類の機能を十分に発揮させるためには、この絡み合った分子をほぐし、伸びた状態にする必要があります。その為に、外力として十分な攪拌が必要となります。
ちなみに、加熱も同様に分子をほぐすために一役買っています。

また、水系を強力に攪拌しながら多糖類粉末を投入することで、投入した粉が素早く分散しますので、ダマができにくくなります。つまり、塊状で水に投入した多糖類粉末に水がしみ込んでダマになる前に分散させてしまうのです。この方法は、ポイントの①で挙げた分散剤の使用が困難な状況等であれば、非常に有効な手法であり、さらに乳化機のような強力な攪拌の場合には、少し位のダマは壊しながら攪拌が行えるため、十分な溶解が可能になります。

十分に攪拌する
絡み合った分子→撹拌→ほぐれた分子

その他、粉末を一気に全量投入せずに少しずつ投入することで、水系の中に分散しやすくなります。しかし、この方法には注意が必要で、少しずつ投入した場合には、投入に要する時間が長くなり、投入した多糖類から順次溶け出すため、徐々に溶液の粘度が上昇します。その結果、粘度が高くなることで攪拌効率が悪くなり、投入した粉末が分散しにくくなるため、ダマが発生しやすくなると考えられます。粘度の上昇に合わせてさらに攪拌を強力にできればよいのですが、液量が多い場合などには困難が予想されます。こういった事態を防ぐためには、「粉は少しずつ投入するが、粘度が出ない間に全量投入してしまう」ということが重要になります。

③加熱を行う

様々な種類の多糖類粉末がありますが、水への溶解方法としては大きく分けて加熱が必要なものと、常温でも溶解できるものの2種類があります。
加熱が条件であるタイプの場合、水に分散した後に、溶解に必要な温度で所定の時間の加熱を行います。右の写真は、各タイプを30分間攪拌した様子ですが、加熱不要のタイプはきれいに溶解していますが、加熱が必要なものは一向に溶解せず沈澱してしまいます。また、溶解に必要な温度や時間は多糖類によって異なり、使用するグレードや多糖類メーカーによって異なることもあるため、よく確認してください。

また、加熱が必要なタイプは、加熱しない限りは溶解せずに粉が分散するだけですので、ダマがほとんど発生しません。ただし、加熱すると溶解するため、温水へ投入するとダマが発生しやすくなりますので、加熱溶解型はできる限り溶解温度よりも低い温度の液に分散することをお勧めします。

一方、加熱不要のタイプは水に分散して混ぜるだけで溶解します。こういったタイプの多糖類は、水と混ざるとすぐに溶けることで機能を発揮するため、ダマが発生しやすい点に注意が必要です。

加熱必要タイプ(左)、加熱不要タイプ(右)常温で30分間撹拌を続けた場合、加熱が不要なタイプは十分に溶解しているが、加熱が必要なタイプは一向に溶解せず、粉末が容器下部に沈殿している。

さらに、加熱不要のタイプを溶解する際にも加熱の工程は有効に機能します。もともと常温の水に溶解するタイプの多糖類も加熱することで、より溶解が促進されます。さらに常温の水に多糖類を投入してダマができてしまった場合にも、攪拌を行いながら加熱することでダマを解消できることがあります。つまり、常温の水に分散してから加熱することで、溶液にダマが残る確立が減少し、十分な溶解を達成しやすくなるのです。ただし、加熱中も十分な攪拌が必要になりますし、加熱の工程が使用できない用途では「分散」と「攪拌」を十分に行うことが、多糖類の機能を発揮させるポイントです。

その他のポイント

多糖類固有の溶解条件や使用条件を把握することも重要です。例えば、多糖類には特殊な条件を整えないと溶けない多糖類も存在し、そういった多糖類にも溶かす以外の方法でそれぞれ使い方、効果があります。
また、使用する多糖類以外の成分は、可能な限り多糖類を溶解してから投入するなど、投入の順番も多糖類の種類や特性によっては重要です。特に糖、イオン、酸などは、多糖類の溶解を妨げたり、物性を変化させることが多いため、できる限り後から添加します。

これらの多糖類の溶解を阻害する要因物質は、多くの場合多糖類のゲル化や増粘に寄与する物質です。多糖類がゲル化する際には、加熱と冷却のみによってゲル化することもありますが、何らかのゲル化因子を必要とします。また、塩などを投入することで増粘する物質もありますが、そこでは何らかの結合や相互作用が起こっています。これらの作用が多糖類を溶解する段階では阻害因子として機能してしまいます。そういった意味では、使用する多糖類のゲル化や増粘効果に影響する因子が使用する他の原料に含まれている場合には、溶解が困難になる場合があるので、ご注意ください。
解決方法としては、多糖類を先に溶解すればよいのですが、製造条件や他の原料との兼ね合いで、中には想定した使用方法が実施できない場面もあるかと思います。そのような場合にも、いくつかの対処法があります。
例えば、ナトリウムやカルシウムなどの無機塩が問題である場合には、イオン封鎖剤を適量加えることで、改善されることがあります。これは電荷をもつ多糖類に多い例ですが、無機塩などが含まれる溶液に電荷をもつ多糖類を溶解する場合、多糖類自体が持つ電荷に起因する反発が起こりにくいため、分子鎖がよりほぐれにくくなっていると考えられます。このような場面で、イオン封鎖剤を加えることで、無機塩の影響をなくし、溶解が容易になります。また、一方では無機塩等はゲル化因子にもなりますので、イオン封鎖剤で内部の電荷状況をコントロールすることで、ゲルになる温度を変えたり、多糖類の溶解温度を変えることも可能です。