キサンタンガムは、微生物キサントモナス・キャンペストリス(Xanthomonas campestris)がブドウ糖などを栄養源として菌体外に分泌した多糖類を、回収・精製して生産される多糖類です。キサンタンガムは、キサントモナス・キャンペストリスが熱や乾燥など自然の厳しい環境下で自らを守るための保護膜として存在しています。

1.構造

キサンタンガムは、右図に示すような繰り返しの単位からなる多糖類です。
主鎖が2個のグルコース、側鎖は2個のマンノースと1個のグルクロン酸で構成されています。側鎖が主鎖に対し非常に長い構造をしていることから、キサンタンガムは非常に高い安定性を示します。末端のマンノース残基がピルビン酸を持っていることがあり、また主鎖に結合したマンノース残基はアセチル化されていることがあります。キサンタンガムは側鎖に含まれるカルボキシル基とピルビン酸により、マイナスの荷電を持った水溶性高分子です。
キサンタンガムの分子量は約200万とされていますが、一方1,300万~5,000万という報告もあります。

図:キサンタンガムの構造

2.製造工程

キサンタンガムは、糖類を原料に発酵することで生産されます。発酵後、回収、精製、乾燥粉砕され製造されています。キサンタンガムは微生物発酵によって製造されるため、植物由来の多糖類と比較して供給が安定しており、ロット間のばらつきも少なくなります。

図:キサンタンガムの製造工程

3.特性

溶解性

冷水にも温水にも可溶です。

粘度

キサンタンガムは粘度が高く、特に他の多糖類と比較して低濃度域で高粘度を示します。

粘度

流動性

極端なシュードプラスチック性を示します。

流動性

シュードプラスチック性とは?

シュードプラスチック性とは、シェアが弱いときは粘度が高く、シェアが強いときには粘度が低くなる性質です。キサンタンガムは静置時には図のようにゲルに似た弱いネットワークを形成しているため高粘度を示しますが、力が加わるとネットワークが即座に解かれるため急激に粘度が低下します。

例えば、キサンタンガムをドレッシングやマヨネーズなどの食品やクリームなどの化粧品に添加した場合、力が加わらない静置状態では粘度が高いため乳化・懸濁安定効果や保形性を発揮します。一方、容器から流れる際は力が加わるため粘度が低下し、流れやすくなります。さらに、喫食時や肌への塗布時は粘度が低下するため、粘さを感じません。

シュードプラスチック性とは?

乳化安定性・懸濁安定性

キサンタンガムは力が加わらない静置状態では粘度が高いため、乳化安定性や懸濁安定性に優れています。

キサンタンガム0.3%(左)、安定剤無添加(右)25℃、1日後

各種耐性

耐熱性、耐酸性、耐アルカリ性、耐塩性、耐酵素性、凍結解凍耐性に優れています。

  • 耐熱性
    耐熱性

    97℃、2時間加熱処理でも、粘度はほとんど低下せずに安定です。

  • 耐酸、耐アルカリ性
    耐酸、耐アルカリ性

    キサンタンガムの水溶液は広範囲のpH(2~13)において安定です。

    さらに水溶液に微量の食塩(0.1%)を添加するとpHの影響を受けに

    くくなります。

  • 耐塩性
    ※食塩濃度液で75℃、15分加熱処理
    耐塩性

    キサンタンガムは高い塩濃度でも粘度低下することなく安定です。

相乗効果

ガラクトマンナン(ローカストビーンガムやグァーガム等)と併用すると、相乗作用を示しゲル化や著しい粘度増加を示します。
キサンタンガムやガラクトマンナン(ローカストビーンガムやグァーガム等)は単独ではゲルを形成しませんが、キサンタンガムとグァーガムを混合すると相乗的に粘度が増加します。また、キサンタンガムとローカストビーンガムを混合し、加熱することにより弾力のあるゲルを形成します。

  • グラフ:キサンタンガムとローカストビーンガムの併用
  • グラフ:キサンタンガムとグァーガムの併用

ガラクトマンナン類はガラクトースの側鎖がついた部分とついていない部分(スムース領域)があります。キサンタンガムとガラクトマンナン類のゲル化は、キサンタンガムとガラクトマンナンのスムース領域が水素結合により架橋を形成し、増粘やゲル化をすると考えられています。主鎖のマンノースと側鎖のガラクトースの比率は、グァーガムでは2:1、ローカストビーンガムでは4:1であり、ガラクトース残基の割合の違いにより、キサンタンガムとの反応性が異なってきます。

キサンタンガム
溶解速度
  • 溶解する速度は速く、素早く粘度を発現します。

    溶解速度

  • ただし、食塩などの塩が含まれると溶けにくくなります。

    溶解速度

温度の影響

温度に関わらず一定の粘度を示します。
多くの多糖類水溶液は、液温が低いときは粘度が高く、液温が高くなると粘度が低下します。一方、キサンタンガムの水溶液は、液温の高低に関わらず粘度はほぼ一定を示します。

温度の影響

4.カチオン化キサンタンガムの構造

カチオン化キサンタンガムはキサンタンガムをカチオン化変性した水溶性高分子です。増粘剤、乳化安定剤として化粧品、トイレタリーの分野で使用されています。

カチオン化キサンタンガムは、右図に示すような構造となっています。
カチオン化キサンタンガムはキサンタンガムを4級アンモニウム化した構造となっています。

図:カチオン化キサンタンガムの構造

5.カチオン化キサンタンガムの製造工程

カチオン化キサンタンガムは原料であるキサンタンガムと4級アンモニウム塩を反応させて製造します。その後、洗浄、乾燥、粉砕の工程を経て製品として出荷されます。

図:カチオン化キサンタンガムの製造工程

6.カチオン化キサンタンガムの特性

粘性:シュードプラスチック性(擬塑性)が強く、分散・懸濁・乳化安定性に優れます。
曵糸性:ポリオールと併用した時の曵糸性が少なくなっています。
使用感:ベタツキ感やヌルツキ感がなくてサッパリした使用感です。
粘度:極めて高い粘度を示します。
pHの影響:等電点がpH3付近のため、pH2~4では凝集しやすく、粘度が低下します。他のpHでは1ヶ月保存しても粘度は安定です。
耐塩性、耐熱性:耐塩性、耐熱性に優れ、長期間安定した粘度を保ちます。

7.応用例

凍結解凍耐性

キサンタンガムは凍結解凍耐性を持ち、凍結解凍を繰り返しても粘度が変化しません。

凍結解凍耐性
耐酵素性

キサンタンガムは各種酵素による分解を受けにくい性質を持っています。

耐酵素性

食品への応用例

対象食品 使用量 使用効果
ドレッシング、マヨネーズ風調味料、ケチャップ 0.1~0.3% シュードプラスチック性により、油分の分離及び固形物の沈降を良く防止します。耐酸、耐塩性により長期間安定です。
とろみ調整剤 10~50%(対粉) 他多糖類と比較して粘度の発現が速いため、水、お茶、コーヒーなど各種飲料に簡単に素早く透明にとろみを付けます。また、食塊を形成し、誤嚥を防ぎます。
醤油 0.02~0.1% 耐塩性により長期間粘度が安定です。
タレ類 0.1~0.2% 耐塩性により長期間粘度が安定です。シュードプラスチック性により、固形物等の沈殿を良く防止します。
ソース類
ウスターソース、濃口ソース、パスタソース 等
0.03~0.06%
0.1~0.2%
耐塩性により長期間粘度が安定です。コク付けや澱粉との併用による粘度付けに
最適です。
漬物類 0.03~0.3% 耐酵素性、耐酸性、耐塩性により漬床、漬液の粘度を長期間安定させ、離水を防止し、照りを良くします。高粘度が必要な時はタマリンドシードガム等との併用が好ましいです。
いかの塩辛 0.05~0.2% 耐酵素性、耐塩性に長期間粘度を保持し、離水を防止します。
ねりうに、ねりがらし、ねりわさび 0.03~0.05% 耐酵素性、耐塩性に長期間粘度を保持し、離水を防止します。
佃煮類(昆布、小魚、海苔、大豆 等) 0.1~0.2% 耐熱性、耐塩性により粘度を良く保持し、乾燥を防止し、照りを良くする。
ガラクトマンナンや寒天との併用も有効です。
缶詰、レトルト食品 0.1~0.2% 120℃、20分以上の加熱にも十分耐え、中味成分の安定化、離水防止、澱粉の老化防止に役立ちます。
冷凍食品 0.1~0.2% 凍結・解凍耐性に優れ、保水性に優れるため成分を長期間安定化し、油調時のパンク少なくし、小麦粉や澱粉の老化を防止します。
粉末即席食品
味噌汁、ポタージュスープ
0.01~0.02%(対液重量)、0.1~0.2%(対液重量) 味噌の沈殿を遅らせ、コクのある生味噌仕立ての味噌汁になります。クリーミーなテクスチャーを与え、冷めても過度な粘りを与えません。
小麦粉製品
パン、ケーキミックス 等、
麺類、即席麺
0.1~0.3%(対小麦粉)、0.1~0.3%(対小麦粉) 加水率を上げ、ボリュームを大きくし、きめ細やかな組織にします。
コシの強い、しなやかな麺にし、油切れを良くします。
果実加工品 0.05~0.2% 良好な流動性を付与し、耐酸性がよく経時的に安定です。長期間離水を防止します。
デザート類(ゼリー、プリン 等) 0.05~0.2% 良好なテクスチャー又は耐熱性を付与します。離水を防止する効果もあります。
パーソナルケア製品への応用例
界面活性剤との相溶性

キサンタンガムはアニオン性、両性界面活性剤と高い相溶性を示します。キサンタンガムはアニオン性のためカチオン性活性剤とは凝集する場合があります。そのため、カチオン性界面活性剤との併用に際しては注意が必要です。

イオン性 相溶性 種類
アニオン性 ラウリル硫酸ナトリウム、ラウレス硫酸ナトリウム、
ココイルグルタミン酸アンモニウム(アミノ酸系)
カチオン性 塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム
両性 ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン

※試験条件:キサンタンガム0.5%、界面活性剤10%

パーソナルケア製品への応用の一例

キサンタンガム
対象化粧品 使用量 使用効果
化粧水 0.05~0.3% 滑らかな使用感を付与します。また、とろみを付与することでリッチ感を出すことが可能です。
ジェル 0.1~1.0% 滑らかな使用感を付与します。ジャー容器からの取り出し時の指どれを改善します。
乳液、クリーム 0.05~1.0% 滑らかな使用感を付与します。またシュードプラスチック性により、油分の分離を防止し、乳化安定性が向上します。
フェイスパック 0.1~1.0% 液だれを防ぎ、肌への密着感を向上させます。
シャンプー、ボディーソープ 0.2~1.0% 手からこぼれおちない程度の適度なとろみを付与し、耐塩性により長期間粘度が安定です。シュードプラスチック性により、ポンプ性が良好です。
洗顔料 0.1~0.5% 分離や離水を防ぎ、安定性を向上させます。スクラブ剤などの固形物の沈降を防止します。
クレンジング 0.1~0.5% 滑らかな使用感を付与します。またシュードプラスチック性により、油分の分離を防止し、乳化安定性が向上します。
日焼け止め 0.2~1.0% シュードプラスチック性により、酸化チタンや酸化亜鉛の凝集と沈降を防ぎます。油分の分離を防止し、乳化安定性が向上します。
パウダーファンデーション、チーク、アイシャドー 0.05~0.2% 粉末原料を固形状にするときのバインダーとして機能します。
クリーム状または液状ファンデーション、チーク、アイシャドー、化粧下地 0.1~0.5% シュードプラスチック性により、顔料等の粉末原料の凝集と沈降を防ぎます。油分の分離を防止し、乳化安定性が向上します。
マスカラ、まつげ美容液、アイライナー 0.1~0.5% シュードプラスチック性により、顔料等の粉末原料の凝集と沈降を防ぎます。油分の分離を防止し、乳化安定性が向上します。塗布時の付着性が向上し、塗布後は皮膜を形成します。
ヘアジェル 0.1~0.5% 適度なとろみと滑らかな使用感を付与します。
ヘアワックス 0.1~0.5% 油分の分離を防止し、乳化安定性が向上します。
ヘアカラー、ヘアマネキュア、パーマ 0.1~1.0% 耐酸性により長期間粘度が安定です。適度なとろみを付与し、塗布時の液だれを防ぎ、髪への付着性を高めます。
歯磨き 0.1~1.0% シュードプラスチック性により、シリカ等の粉末原料の分離を防ぎます。ペーストに滑らかさやつやを付与します。
カチオン化キサンタンガム
対象化粧品 使用量 使用効果
シャンプー 0.1~0.5% 増粘させにくいアミノ酸系界面活性剤を使用した場合においても、しっかり増粘します。洗浄時の泡質を改善します。
ヘアトリートメント 0.1~1.0% 乳化安定性を向上します。
乳液 0.1~0.5% 乳化安定性を向上します。サッパリとした使用感の乳液が作製可能です。
クリーム 0.1~1.0% 乳化安定性を向上します。サッパリとした使用感のクリームが作製可能です。
洗顔フォーム(アミノ酸系) 0.1~1.0% 増粘させにくいアミノ酸系界面活性剤を使用した場合においても、しっかり増粘します。洗浄時の泡質を改善します。
洗顔フォーム(脂肪酸系) 0.1~1.0% 洗浄時の泡質を改善します。
サンスクリーン(O/W) 0.1~0.5% 乳化安定性を向上します。サッパリとした使用感のサンスクリーンが作製可能です。
ヘアジェル 0.1~1.0% 伸びがよく指どれの良いセット剤が作製可能です。
クレンジング 0.1~1.0% 乳化安定性を向上します。クレンジング効果のある油剤を大量に配合する事で、クレンジング力を向上できます。