タマリンドシードガム
タマリンドシードガムとは、インドや東南アジアに生育する巨大常緑樹・タマリンド(Tamarindus Indica L.)の種子を分離精製して得られる多糖類です。タマリンドガムと呼ばれる場合もあります。
タマリンドの起源は中央アフリカと言われており、現在ではインドや東南アジアのように亜熱帯・熱帯の地域で見ることが出来ます。古くからその果実、種子は人々の生活に活用されており、例えば食品分野では果肉の甘酸っぱさを活かし、清涼飲料水、ジャム、デザート、カレー、菓子などに使用されます。種子は油で揚げたり、茹でたり、炒ったりして食用にされます。またインドでは種子粉末をチャパティの材料に使用します。
1.構造
タマリンドシードガムは、右図に示すようなキシログルカンと呼ばれる構造をした多糖類です。
主鎖はグルコース、側鎖はキシロースとガラクトースで構成されており、電荷を持たない水溶性高分子です。分子量は約47万とされており、水溶液は中程度の粘性を示します。
2.製造工程
タマリンドシードガムはタマリンド種子を原料とし、下図のように多糖類成分を分離・精製して製造されます。
3.特性
溶解性
加熱溶解・冷水溶解の両方のタイプがあります。
粘度
タマリンドシードガムは添加量に比例して粘度が大きくなります。他の多糖類と比較すると中程度の粘度を示します。
流動性
タマリンドシードガム水溶液は剪断力(シェア・攪拌力)の強弱に関わらず、ほぼ一定の粘度を発揮するニュートン粘性を示します。(参考:シュードプラスチック性)
ニュートン粘性の特長は曳糸性やぬるつきが少なく、自然な粘性を与えることです。そのためソースやタレ等をあっさりとしたテクスチャーに仕上げ、化粧水等はさっぱりとみずみずしい使用感に仕上げることができます。
各種耐性
耐熱性、耐酸性、耐塩性に優れています。
相乗効果(増粘・ゲル化)
タマリンドシードガムは糖類・アルコール類等と併用すると相乗効果により増粘・ゲル化します。増粘やゲル化は糖類・アルコール類の持つ脱水作用によりタマリンドシードガム分子が凝集すること、また糖類・アルコール類がタマリンドシードガム分子との水素結合により高次のネットワークを形成することで起こります。
増粘やゲル化は併用する物質の種類や添加量により異なります。ゲル化について下記に代表例を示します。
ショ糖、グリセリン
ショ糖やグリセリンを併用した場合、弾力性に富んだ、硬く離水の無い透明なゲルになります。
エタノール
エタノールはショ糖よりも少ない量で硬く、フレーバーリリースの良い不透明なゲルを作ります。
カテキン
微量の茶カテキンと併用すると融点の低い(20~30℃)、口どけのよいゲルを作ることが出来ます。
4.応用例
凍結解凍耐性
タマリンドシードガムは凍結解凍耐性に優れています。
耐酵素性
タマリンドシードガムはアミラーゼに対して優れた耐性を示します。
食品への応用例
対象食品 | 使用量 | 使用効果 |
---|---|---|
とんかつソース、お好み焼きソース、ハンバーグソース | 0.5~1.5% | 増粘し、コク味を付与します。懸濁安定性が向上します。 |
焼き鳥のタレ、焼肉のタレ、かば焼きのタレ、みたらし団子のタレ | 0.2~1.0% | 増粘し、コク味の付与と付着性が向上します。 |
マヨネーズ風ドレッシング、ドレッシング類、ノンオイルドレッシング | 0.2~1.0% | 増粘し、コク味の付与と、乳化安定性、懸濁安定性、付着性が向上します。 |
佃煮類(海苔、昆布、えのき) | 0.1~1.0% | つや・照り出し、離水防止効果を付与します。懸濁安定性が向上します。 |
漬物類(べったら、キムチ、福神漬) | 0.1%~1.0% | 増粘し、つや・照り出し、離水防止効果を付与します。 |
フィリング(フラワーペースト、カスタードクリーム、ねり餡) | 0.1~0.5% | 離水防止、澱粉の老化防止効果を付与します。機械耐性が向上します。 |
ジャム類(ジャム、フルーツソース) | 0.2~1.0% | ゲル化し、離水防止効果を付与します。懸濁安定性が向上します。 |
麺類(即席麺、うどん、餃子の皮) | 0.1~0.5% | 離水防止、澱粉の老化防止効果を付与します。機械耐性、テクスチャーが向上します。 |
小麦粉製品(パン、ケーキ、焼き菓子、バッターミックス、お好み焼き、たこ焼きミックス) | 0.1~0.5% | 増粘し、機械耐性、テクスチャーが向上します。澱粉の老化防止効果を付与します。 |
冷菓(アイスクリーム、アイスミルク、シャーベット、アイスキャンディー、かき氷) | 0.05~0.3% | 氷晶安定、ナキ防止効果を付与します。オーバーラン、口溶け、スプーン刺さりが向上します。 |
デザート(ゼリー、プリン、くずもち) | 0.05~1.5% | ゲル化し、離水防止、凍結解凍耐性を付与します。テクスチャーが向上します。 |
飲料(果汁飲料、低脂肪牛乳、ココア飲料、スープ) | 0.05~0.2% | 増粘し、コク味と懸濁安定性を付与します。 |
パーソナルケア製品への応用例
糖類・アルコール類との相乗効果
タマリンドシードガムは先の「相乗効果(増粘・ゲル化)」で説明したとおり、糖類・アルコール類等と併用すると相乗効果により増粘・ゲル化します。
併用時の相乗効果の強さは概ね、低級アルコール(エタノール等)>ポリオール(BG、DPG等)>糖アルコール・糖類(ソルビトール、トレハロース等)の順で強くなっており、下図のような特長があります。
糖類・アルコール類の種類 | ゲル化の特長 | ゲル物性 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
スピード | 添加量 | かたさ | 弾力 | 離水 | 透明性 | |
エタノール等 (低級アルコール) |
早い | 少ない量で ゲル化 |
硬い | 弱い | 多い | 白濁 |
BG・PEG400・グリセリン等 (ポリオール類) |
||||||
ソルビトール・トレハロース等 (糖アルコール類・糖類) |
遅い | 多くないと ゲル化しない |
軟らかい | 強い | 少ない | 透明 |
界面活性剤との相溶性
タマリンドシードガムはアニオン性、カチオン性、両性、ノニオン性の界面活性剤と相溶性があります。特に増粘が難しいとされるアミノ酸系界面活性剤を効果的に増粘出来ます。
イオン性 | 相溶性 | 種類 |
---|---|---|
アニオン性 | ◯ | ラウリル硫酸ナトリウム、ラウレス硫酸ナトリウム、ラウロイルサルコシンナトリウム、 ココイルグルタミン酸ナトリウム(アミノ酸系)、ラウロオイルメチルアラニンナトリウム(アミノ酸系) |
カチオン性 | ◯ | 塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム |
両性 | ◯ | ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン |
ノニオン性 | ◯ | ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテル(20E.O.)(4P.O.)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 |
※試験条件:タマリンドシードガム0.5%、界面活性剤 イオン性10% ノニオン性 2%
パーソナルケア製品への応用例
化粧品 | 使用量 | 使用効果 |
---|---|---|
化粧水 | 0.05~0.5% | 曳糸性のない自然なとろみで、厚みのある使用感を付与します。 |
ジェル | 0.1~2.0% |
曳糸性のない自然なとろみで、厚みのある使用感を付与します。 ポリオール類やポリフェノールとの併用により、ゲル化します。 |
乳液、 クリーム |
0.1%~2.0% | 曳糸性のない自然なとろみで、厚みのある使用感を付与します。乳化安定性を向上させます。 |
ゲル状パック | 1.0~4.0% | ポリオール類との併用により、徐々にゲル化させることが可能です。 |
シャンプー、 ボディーソープ |
0.1~2.0% |
手からこぼれおちない程度の適度なとろみを付与し、耐塩性により長期間粘度が安定です。 弾力のある泡質となります。 |
トリートメント | 0.1~2.0% | 滑らかな使用感を付与します。乳化安定性を向上させます。髪への付着性を向上させます。 |
ゲル状石鹸 | 1.0~4.0% | ポリオール類との併用により、ゲル化します。弾力のあるゲルを形成します。 |
洗顔料 | 0.1~2.0% | 容易に泡質を改善できます。つやと弾力のある泡質となります。 |