アルギン酸塩類はコンブやワカメに代表される褐藻類から抽出される多糖類です。

1.構造

アルギン酸塩類と、その基本の酸となるアルギン酸はウロン酸の重合体です。ウロン酸にはL-グルロン酸とD-マンヌロン酸の2つがあり下図のような構造をしています。

図:アルギン酸の構造

重合体の中のこれら2つの構成糖の配列は一定ではなく、海藻の種類、部位、採取したアルギン酸の成長度合によって異なります。そして、これら2つの構成糖の比と配列パターンがアルギン酸塩の挙動と性状に影響を及ぼします。配列には、3種類のユニットが存在します。1つ目はマンヌロン酸が連なり、2つ目はグルロン酸が連なり、3つ目はマンヌロン酸とグルロン酸が交互に連なっているユニットです。このユニット内でマンヌロン酸とグルロン酸の分子構造は非常に似ており、カルボシキル基の位置によって区別されます。しかし、それらの立体構造は異なっており、マンヌロン酸は比較的平坦なリボン状構造をとり、グルロン酸は舟型構造をとります。これらの立体構造の違いにより、カルボキシル基がカルシウム陽イオンと立体的に反応しやすいかどうかに違いが現れます。

アルギン酸のユニット

図:アルギン酸のユニット

また、アルギン酸にプロピレングリコールをエステル結合させるとアルギン酸プロピレングリコール(PGA)またはアルギン酸エステルと呼ばれる誘導体が生成されます。
その誘導体のエステル化の度合いによってアルギン酸の物性に影響を与えます。

図:アルギン酸のユニット

2.製造工程

アルギン酸およびその塩類の製造方法は抽出と段階的精製の2段階から成ります。アルギン酸のもつカルボキシル基に対するイオン交換によって製造されます。収率は原料にもよりますが乾燥原藻の20~30%程度です。

図:アルギン酸の製造工程

3.特性

溶解性

アルギン酸ナトリウム、PGAは冷水にも熱水にも溶解できます。水に非常に溶けやすいため、分散する場合にはダマにならないよう注意が必要です。

pHの影響

アルギン酸塩の溶液はpH5以上では粘度が安定しますが、pH4以下では溶けにくくなります。これはアルギン酸塩がアルギン酸に変化することが原因で起こります。従って、pH5以下で増粘剤として使用する場合にはPGAの使用が適しています。逆にpHが高い場合には、PGAはエステルが加水分解してしまうため、PGAは酸性~中性での使用が適しています。

イオンの影響

アルギン酸ナトリウム溶液はカルシウムイオンが存在すると溶けにくくなります。従って、カルシウムイオン濃度が高い食品などには、PGAの使用が適しています。

物性

アルギン酸塩溶液にカルシウムイオンのような多価陽イオンを添加すると、多価陽イオン濃度の上昇につれて増粘し、一定以上の濃度になるとゲル化します。アルギン酸塩のカルシウムイオンによるゲル化は、箱状構造をしたグルロン酸が連なったユニットにカルシウムイオンを抱き込んで卵の形に似たエッグボックスと呼ばれる三次元構造をとることで起こります。したがって、マンヌロン酸の比率の高いタイプのアルギン酸塩からは柔軟なゲルが、グルロン酸の比率が高いタイプのアルギン酸塩からは、硬くもろいゲルが得られます。

PGAはカルボキシル基がプロピレングリコールによってマスクされているので、カルシウムと反応しにくく、アルギン酸塩のように容易にゲル化はしません。

図
egg box model

4.応用例

熱安定性

アルギン酸塩溶液は高温に長時間さらされると分解し、粘度が低下します。しかし、カルシウムが存在するとアルギン酸塩溶液およびゲルの熱安定性が向上します。

キレート剤

アルギン酸塩は溶液中に多価陽イオン、特にカルシウムイオンがあると溶解しにくくなるため、キレート剤を用いてカルシウムイオンを封鎖し、溶解しやすくすることができます。

ゲル化スピードのコントロール

アルギン酸ナトリウムとカルシウムイオンが反応して起こるゲル化は極めて急速に起こります。この急速なゲル化能を利用して、アルギン酸ナトリウム溶液をカルシウムイオンが含まれた溶液に滴下して人工イクラや人工フカヒレなどを作ることができます。このゲル化のスピードをコントロールするには以下の3つをコントロールすることがポイントです。①カルシウム塩の選択。②促進剤としての有機酸。③遅延剤としてのカルシウムイオン封鎖剤。

乳化安定効果

PGAはカルシウムに反応しにくく、カルシウムを豊富に含む乳製品などにも溶解・増粘することができます。また、PGAは乳たんぱく粒子の表面に付着し、粒子同士の静電気反発を補うように働くといわれています。これによって乳たんぱくが凝集・沈殿するのを防ぎ長期間安定な状態を保つ効果があります。

泡沫安定効果

PGAをビールに添加することで泡沫安定効果が得られます。PGAは特有の界面活性能力で泡をきめ細かくするとともに、起泡たんぱくに作用して泡の膜を補強する働きがあるといわれています。その結果、泡の保持時間が延長します。

食品への応用例

対象食品 添加量 使用効果
ゼリー 0.1~2.0% 硬いゼリーをつくることができます。冷水でも溶解させることができるのでインスタントゼリーを作ることもできます。
歯科印象剤 0.1~10.0% 加熱が必要ないので、手軽に素早くゲルを作ることができます。
冷凍食品 凍結解凍耐性があります。
小麦粉製品 0.04~3.0% パンに使用することで膨らみが良くなります。麺に使用することでテクスチャーを改良し、長時間煮込んでも溶けにくい麺を作ることができます。
デザート類 0.1~2.0% テクスチャー改良ができ、ボディ感を付与することができます。
酸乳飲料 0.01~1.0% PGAにより凝集抑制効果があります。
飲料 0.1~8.0% 適度な粘性によるテクスチャー改良。粘度を上げることにより懸濁安定効果もあります。また、ビールに使用することで、泡沫安定剤としても使用することができます。
調味料 0.05~1.0% 懸濁安定効果があります。また、乳化を安定させることができます。