食物繊維
1.構造
食物繊維とは
食物繊維とは多くの食品に含まれており、人々が古くから食してきた成分の一つです。“食物繊維”という言葉の元となった“Dietary fibre”(※)は、1972年、Trowellが提案した考えで、その定義は“人の消化酵素の作用を受けない植物細胞の構造残渣”というものでした。
“Dietary fibre”=“食物繊維”という翻訳が適切か否かについては、日本国内でも議論がされており、近年では、今まで“食物繊維”と呼ばれてきたものを含む言葉として“ルミナコイド”という言葉も提案されています1)、2)。“ルミナコイド”とは、2003年に日本食物繊維研究会誌にて発表された考えで、食物繊維を始めとする生理作用を有する全ての難消化性成分を含む新しい考え方です。これには今まで、食物繊維と言っていいの?と言われてきた難吸収性、または難消化性の糖アルコールや、難消化性のオリゴ糖のような低分子化合物も含まれています。
Trowellが“Dietary fibre”という言葉、考え方を提案してから40年以上がたった現在、研究の進歩によって、“Dietary fibre”と考えられる物質の範囲は拡大され、当時よりもより多くの高分子化合物が含まれるようになりました。しかしながら、どこまでが“Dietary fibre”と呼んでいいのか?という問題については各国で意見が分かれており、決着がついていません。様々な“Dietary fibre”という考えの中、ほぼ共通して言われている内容は“難消化性化合物であり、人間の健康に有用な効果を持つもの”という点です。
なお、一般的に多糖類と称される物質の多くは食物繊維であるとされています。
“日本食品標準成分表第七訂” 3)では「食物繊維とはヒトの消化酵素で消化されない食品中の難消化性成分の総体」とされています。また、日本の食品表示法では、その呼び方は“食物繊維”とされており、その表示については“推奨表示”の分類とされています。“推奨表示”は、表示の義務はありませんが、表示を行う場合には食品表示基準に沿った方法で表示する必要があり、その含有量の評価方法も決められています。測定方法はプロスキー法、または高速液体クロマトグラフ法4)とされており、実際の測定ではAOAC(Association of Official Agricultural Chemists)の公定法(AOAC法)が広く用いられています。
また、平成15年2月17日付の厚生労働省(当時)通知によると、食物繊維の熱量(カロリー)は最大でも1gあたり2キロカロリーであると定められています。
食物繊維の熱量についてはこちら
食物繊維は通常、食品素材として扱われますが、特定の機能(増粘等)を目的として使用する場合には、食品添加物として表示が必要になる場合があります。
引用文献
- 1)食物繊維 基礎と応用:監修 日本食物繊維学会、編集 日本食物繊維学会編集委員会
- 2)桐山修八 他:日本におけるDietary fiberの定義、用語、分類をめぐる論議と包括的用語の提案まで:日本食物繊維研究会誌, 7, 39-49 (2003)
- 3)日本食品標準成分表2015年版(七訂), 著:文部科学省
- 4)食品表示基準, 平成二十七年三月二十日内閣府令第十号
※“Dietary Fibre”について
本稿記載の“Dietary Fibre”はイギリス英語となり、アメリカ英語表記では“Dietary Fiber”となります。どちらも同じ意味ですが、日本で一般的に使用される英語はアメリカ英語のため、「“Fiber”の方が分かり易い」と言う方も多いと思います。しかし、本稿では初めて“Dietary Fibre”という単語を用いたEben Hipsley氏、及び現在の“Dietary Fibre”の概念の基礎を築いたHugh Trowell氏に敬意を表し、当時の論文(A)(B)から引用し、“Dietary Fibre”として記載を行っています。
また、食品の国際規格CODEXにおいても、その記載は“Dietary Fibre” (C)となっており、国際的な単語の使用としても“Dietary Fibre”が適当と判断し、使用しました。ちなみに、Eben Hipsley氏はオーストラリア大学、Hugh Trowell氏はイギリス人であることから、イギリス英語で論文が書かれたのだと考えられます。
引用文献A: Trowell H. : Crude fibre, dietary fibre and atherosclerosis, Atherosclerosis, 1972 Jul-Aug;16(1), 138-140
引用文献B: HIPSLEY EH. : Dietary “fibre” and pregnancy toxaemia, Br Med J. 1953 Aug 22; 2(4833), 420-422
引用文献C: CODEX ALIMENTARIUS Guidelines on nutrition labelling CAC/GL 2-1985
2.生理作用
食物繊維の生理機能は非常に多く、各食物繊維によって異なります。一般的には糖質の消化吸収速度の遅延、コレステロール値の低減、排便・便性改善効果、プレバイオティクス効果等が知られています。このように、食物繊維を摂取した際の効能は非常に多く、日本国内でも“食物繊維”を特定保健用食品の保健機能成分(関与成分)として用いている製品が多くあります。
3.食物繊維の一例
“食物繊維”は種類によって基本構造が違い、不溶性であったり、水溶性であったりします。また、その由来は植物や微生物、甲殻類等、非常に多くの動植物からなります。
このように多くの定義や分類がある “食物繊維”ですが、植物由来のものが最も消費者には親しみがあり、一般的ではないかと思います。このため、今回は植物由来の“食物繊維”について、いくつか簡単に紹介していきます。
3-1. シトラスファイバー
食物繊維の1つ、シトラスファイバーは柑橘類の食物繊維です。
製法
シトラスファイバーは柑橘類の果皮から果汁と油分を取り除いた後、洗浄、乾燥、粉砕することによって製造されます。
シトラスファイバーは、主に不溶性食物繊維から構成されており、主構成内容はセルロース、ヘミセルロース、ペクチン等です。
特性
乾燥粉末状態のシトラスファイバーは原料果物由来の細胞構造を残しており、乾いたスポンジのような状態です。膨潤の有無によって大きくテクスチャーが変わるため、使用量も0.05~5%程度と、用途により幅広くなります。
応用の一例として、飲料、クリーム、チーズ、ケーキ、デザート食品、冷菓、肉加工品等があります。
3-2. サイリウムシードガム
食物繊維の1つ、サイリウムシードガムの原料は、インドで栽培されているブロンドサイリウムが主流です。サイリウムは種皮(種子の外皮)に食物繊維を含んでおり、種子を水に浸すと粘質物が種子表面に現れます。
製法
サイリウムシードガムは種皮(ハスクとも呼ばれる)を粉砕したものです。
特性
サイリウムシードガムは、“サイリウム種皮由来の食物繊維”として特定保健用食品の“関与成分”としても使用されており、多くのサイリウムシードガム入り食品が特定保健用食品として表示を認可されています。サイリウムシードガム入りの特定保健用食品の効果としては、「おなかの調子を整える」「コレステロールの吸収を抑える」「血清コレステロールを低下させる」等があります。原材料名としては、サイリウム、食物繊維、プランタゴオバタ等と表示されています。
一方で、サイリウムシードガムは、食品添加物として既存添加物名簿のNo. 143に収載されている既存添加物です。増粘目的等での使用の場合は、添加物としての表示が必要です。
サイリウムシードガムはとろろ様の特有の溶液粘性と強い保水力が特徴で、使用量は0.1~1.0%程度が適当です。それ以上の添加の場合は粘性によるテクスチャーへの影響が大きくなります。主成分であるサイリウムシードガムは、水練り製品の保水剤、麺やパン等の小麦粉製品の物性改良剤等で使用されています。
3-3. グァーガム酵素分解物
食物繊維の1つグァーガム酵素分解物は、インド、パキスタン地方に生育する一年生豆科植物グァー(学名 Cyamopsis tetragonoloba)の種子を原料としています。
製法
グァー種子から得られたグァーガムを酵素(ガラクトマンナナーゼ)で部分的に加水分解し、乾燥粉末化したものがグァーガム酵素分解物です。部分分解は主に主鎖のマンノース骨格部分で起こります。
特性
グァーガム酵素分解物は水に可溶で低粘性、水溶液は中性で無色透明を示します。10%濃度においてもその粘度は10mPa・s以下です。
グァーガム酵素分解物は冷水溶解性で、きわめて粘度が低いため、食物繊維として有効な量を添加しても、食品に影響を与えにくく、あらゆる食品に添加して使用することが可能です。
使用量は0.1~10.0%程度で、応用の一例としては飲料、デザート食品、冷菓、菓子類、麺類、ドレッシング、惣菜等、幅広い食品への添加が可能です。
また、グァーガム酵素分解物は特定保健用食品の“関与成分”としても使用されています。このため、グァーガム酵素分解物入りの特定保健用食品では、「便通改善」等の表示が許可されている場合があります。この、グァーガム酵素分解物は、食品添加物として既存添加物名簿のNo. 92に収載されています。増粘目的等での使用の場合は、添加物としての表示が必要です。
4.応用例
食物繊維を使用した応用処方をご紹介します。