測定手法のお話 ~SEM-EDX分析例 シャンプー~
測定手法
前回のSEM-EDX紹介では、その原理と、材質分析例をご紹介しました。
今回は、視点を変えてSEM-EDXを用いた、シャンプーに含まれるコンディショニング成分の毛髪への影響分析をご紹介します。
シャンプー、コンディショナーの構成
シャンプーの主成分は界面活性剤からなる洗浄成分と、カチオン性ポリマー*1やシリコーンなどからなる、コンディショニング成分に分類できます。このうち、カチオン性ポリマーはセルロースや、グァーガム等を原料としたものが使用されていることが多く、毛髪の洗浄、すすぎ時に界面活性剤と共にコアセルベート*2を形成し、毛髪の滑り性に寄与します。この界面活性剤とカチオン性ポリマーの選択と組み合わせが、各メーカーのシャンプーの特徴となる部分です。
また、コンディショナーにおいては多種のコンディショニング成分が含有していますが、よく使用される成分の一つとして、毛髪の滑らかさに寄与するシリコーンが挙げられます。
*1 カチオン性ポリマー:表面が正に電荷している高分子。
*2 コアセルベート:ある溶媒に微小な粒子が均一に分散している状態をコロイドというが、そのコロイド中で、コロイドが分離、集合してできた粒子や層。
シャンプーに含有するカチオン性ポリマーの種類と、シリコーン付着量への影響
さて、今回はカチオン性ポリマーを変更することで、コンディショニング成分であるシリコーンの付着性がどのように変わるかをSEM-EDXを用いて分析し、官能評価との比較を行いました。
サンプルは人口毛髪を用い、日常と同様のサイクルとなるよう、シャンプー、コンディショナー、タオルドライ、ドライヤーで乾燥後、一晩経過後に評価しました。
シリコーンには、コンディショナーによく使用されるジメチコンを使用しました。構造式は(C2H6OSi)nとなるため、元素としてはケイ素(Si)が検出されます。結果は、以下画像の通りで、ケイ素(Si)が付着しているところが青く光って見えます。
毛髪のキューティクルの溝部分が青く光っており、シリコーンが付着していることがわかります。
同様の測定を、カチオン性ポリマーである、カチオン化グァーガムを変えた3種類のシャンプーを使用した各毛髪に対して10回x3サンプル、計30セットのデータを取得し、平均値と標準誤差を出したのが、以下のグラフです。
この3種の毛髪のSi付着量について、ある統計的判定を行った結果、カチオン化グァーガム③を使用したもの(以下、③)のみ有意さが認められました。*3
官能評価においても③のみ、毛束が滑らかかつしっとりしており非常に良好な結果となりました。また、摩擦感テスター*4での結果も同様に③が滑り性、滑らか性が最も良好で、SEM-EDXによるSiの付着量と一致しました。
このように、SEM-EDXを用いると金属物の組成のみならず、付着物質の量や分布についても解析可能となります。
以上、2回にわたってお送りしたSEM-EDXの原理と用途、如何でしたでしょうか。次回は久しぶりに彼らが登場するかもしれません。
*3:Studentのt検定、及びTukey Kramer検定にて実施。両検定ともに、有意水準0.01にて有意差が検出されました。
*4:対象物質の“なめらかさ”、“滑りやすさ”、“ざらつき感”等を定量化する分析装置。布生地やティッシュの評価等にも使用されます。