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多糖類の決まり事~食物繊維の熱量 その2「食品表示における食物繊維熱量の考え方」~

制度

食品の栄養表示の基準とは?
 食物繊維の熱量のお話の前に、表示基準となる栄養表示についてご説明します。市販の食品に掲載されている栄養表示は「栄養表示基準」として制度化され、平成27年4月に施行された食品表示法により、現在ではその表示が原則義務化されています。その中で食物繊維は様々な議論や検討を経て、炭水化物の内訳表示として記載され、推奨表示項目とされています。今回の豆知識では、この食品表示法に沿った形で説明を進めてまいりたいと思います。

豆知識12向け画像 食品表示において、炭水化物は糖質と食物繊維の総量として表示されます。過去には、食物繊維を表示する場合には炭水化物とは記載せずに、糖質、食物繊維を表示することになっている時期もありました。しかし、最新の食品表示基準においては炭水化物の記載は必須表示の項目となった為に内訳として表示することとなりました。更に糖質の内訳として糖類の表示も可能です。文章ではわかりにくいので、イメージとしては右図のようになります。

食品表示基準1)に定義されている各構成物質の算出方法を記載すると以下のようになります。(製品100g中)

炭水化物(g)     :100g - (水分+タンパク質+脂質+灰分)       
     糖質          :炭水化物 - 食物繊維
     糖類             :単糖類 + 二糖類(糖アルコールを除く)

 上記から、炭水化物はタンパク質や脂質、ミネラル成分等(灰分)のいずれにも分類されないものを示し、その内訳として食物繊維と糖質が明記されることになります。炭水化物は、栄養学的には糖を構成成分とする物質の総称とされています。また、糖類の項目で示される単糖類はそれ以上分解できない糖の最小単位となり、やや乱暴な言い方ですが、食べた際に直接甘みとして感じやすいものが糖類であると言えます。

食物繊維と糖質の違いは?
 炭水化物のうち糖質と食物繊維を分ける定義は何になるのでしょうか。いまだに議論の続く定義になりますので、代表的な2つの定義を以下に記載します。

  • 「食物繊維とはヒトの消化酵素で消化されない食品中の難消化成分の総体」:日本食品標準成分表第七訂

  • 「人間の消化管に内在する酵素で加水分解されない、10 又はそれ以上の単量体からなる炭水化物ポリマーであり、これは食品中にもともと存在する食用のもの、物理的、酵素的、化学的処理により得られたもの及び合成されたもの。また、重合度3~9 の多糖類の取り扱いについては各国当局に委ねる」:FAO(国際連合食糧農業機関)とWHO(世界保健機関)によって設置された政府間組織である国際食品規格委員会(コーデックス委員会)が示したガイドライン(2013年修正版)
     ちなみに「日本国内では、三糖以上を食物繊維とする」と、平成27年に施行された食品表示基準に関する分析方法の通知に記述があります。


 つまり、非常に大雑把な書き方をすれば三糖以上の消化酵素で分解されない多糖類は食物繊維と定義されているのです。これらの定義に沿った形で様々な分析手法が開発され食品表示法の分析手法として認められていますが、分析対象となる物質によっては特定の分析手法が適さない場合もあり、最適な食物繊維の分析手法を試料に応じて選択する必要があります。消化されない食物繊維はヒトの体内で吸収されることはなく、エネルギー(熱量)は発生しないように感じますが、実際は食物繊維にもエネルギーが設定されています。

 食物繊維の有効性
 かつて食物繊維は、栄養学的な機能がない上に栄養の吸収低下を招く邪魔者であると考えられていました。しかし、その後の疫学的な調査によって肥満や糖尿病等の増加が食物繊維の摂取不足と深い関わりがあると判明したことでその価値が見直され、今では「第6の栄養素」として「日本人の食事摂取基準(2010年版)」において摂取する目標値が設定されるほど有用食品としての地位を築いています。食物繊維が消化されずに排出される〝邪魔者〟から、消化されないので栄養学的には栄養ではないにも関わらず〝栄養素〟と呼ばれるまでに大躍進したのは何故なのでしょうか。

 その理由としては、食物繊維を摂取することにより得られる様々な効果が挙げられます。広く知られている一般的な効果としては便通の改善が挙げられますが、その他にも糖質の消化吸収速度の遅延やコレステロール値の低減等の様々な効果が確認されています。これらの効果は、水溶性の食物繊維と不溶性の食物繊維で効果が若干異なります。
 不溶性の食物繊維としてはセルロースやヘミセルロース、リグニンが挙げられます。これらは水に溶けませんが、食物繊維が水を吸収して膨らむことで満腹感の維持に寄与すると共に、腸を刺激することで蠕動(ぜんどう)運動を活発にして便通を促進します。
 一方、水溶性の食物繊維としては、ペクチンやグァーガム、近年話題になっている物質ではコンドロイチン硫酸も水溶性の食物繊維の仲間とされています。これらは水に溶解することで高い水分保持能力を示し、水がゲル状になる、もしくは粘度が増大することで糖質吸収を穏やかにしたり、血中コレステロールを減少させるとされています。また、水溶性の食物繊維は消化されずに大腸まで到達した後、大腸内の腸内細菌の食事として発酵されることで短鎖脂肪酸や各種ガスを発生させます。〝サツマイモを食べるとオナラが出る〟といった話もこの作用によるもので、腸内細菌ががんばった結果、多くのガスが発生するのです。ここでポイントになるのが、〝この作用で発生するオナラはあまり臭くない〟ということ。腸内細菌による発酵では、俗に言う善玉菌と呼ばれる細菌が働き、発生するガスの多くは炭酸ガスであるため臭いは少ないとされています。一方、臭いオナラは悪玉菌の作用による腐敗が主な原因とされており、腸内環境の乱れや動物性タンパク質、脂質の過剰摂取が原因とされます。つまり、水溶性の食物繊維は善玉菌のご飯になることで腸内環境の改善に一役買うわけですが、その他にも同時に作り出す短鎖脂肪酸も腸内環境の改善に有効に作用します。

 短鎖脂肪酸とは、酪酸やプロピオン酸、酢酸などの有機酸のことで、この酸によって腸内環境が酸性に傾きます。悪玉菌は酸性条件では繁殖が抑えられ、善玉菌の代表例であるビフィズス菌や乳酸菌にとって生育・活動が行いやすい環境になります。このように腸内環境の改善や機能促進に役立つものはプレバイオティクスと呼ばれ、食物繊維はその機能を持つものとして注目されています。同様の機能を持つ物質として有名なのはオリゴ糖です。おなかに良いといったイメージがあるかと思いますが、これも食物繊維と同様に小腸ではほとんど吸収されず大腸でビフィズス菌等の善玉菌のご飯になります。このオリゴ糖も大きく見れば糖質の仲間になりますが種類は多く、難消化性のオリゴ糖が特に腸内環境の改善に効果があるとされます。これらの難消化性のオリゴ糖やキシリトール等の糖アルコールのことを難消化性糖質と呼びます。

食物繊維から発生するエネルギー
 さて、食物繊維の機能について述べましたが、食物繊維のエネルギー(熱量)に話を戻しましょう。食物繊維は人の消化酵素で分解されない物質であり、人が直接エネルギーとして用いることはできません。しかしながら、プレバイオティクスの機能の中でご紹介したように、腸内細菌による発酵作用により短鎖脂肪酸を発生します。この物質は腸内環境を弱酸性に保つ効果も発揮しますが、大腸から吸収されて肝臓等の臓器で更に代謝される事でエネルギーを産出します。つまり、人の消化酵素では直接分解することが出来ずエネルギーとしては利用できませんが、腸内細菌のご飯となり発酵が行われることで発生する物質が腸で吸収されることでエネルギーとして利用できるのです。したがって、食物繊維のエネルギー係数は各成分の発酵性の影響を強く受けるため、その発酵性を考慮して提案された前回の豆知識で紹介した表のような数値となっています。タマリンドシードガムやグァーガム酵素分解物は食物繊維にも関わらず2kcal/gとエネルギーが高いような印象を受けますが、通常の消化によるエネルギーとは経路が異なる為、エネルギーが高い→短鎖脂肪酸の産生量が多いことで腸内環境の改善に対してより有効に作用することが期待できるとも考えられます。また、エネルギーの算出経路の違いから、血糖値の上昇や体重増加への影響は非常に低いとされています。

 次回の豆知識では、実際の多糖類製品の栄養表示を例に、その算出方法やエネルギーの計算方法をロイドくん達に紹介してもらいましょう!

 引用文献
1) 平成27年12月24日付の消食表第655号消費者庁次長通知 別添「食品表示基準について」第三次改正版
本稿で述べた内容については、2016年3月現在で確認できる情報をもとに作成しています。その他、食品表示に関わる最新情報は、消費者庁HP(http://www.caa.go.jp/)で入手、ご確認をお願いします。

 

 

 

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