測定手法のお話~SEMを使ってみよう!「ゲルの構造観察」~

ゲルを作成するときに使用する多糖類には様々な種類が存在します。ジェランガムや寒天、カラギナンはイオンの添加が必要な場面もありますが、1種の多糖類だけでゲル化させることが出来ます。一方、キサンタンガムやローカストビーンガム等はゲルを作るために2種の多糖類の混合が必要になります。こういった異なる仕組みでゲルを作り出す多糖類ですが、仕組み以上にその感触は多岐に渡ります。その感触は「かたい」「やわらかい」だけではなく、「弾力がある」や「離水が多い」などと様々に表現されます。この違いを最も簡単に実感できるのは、コンビ二のデザートコーナーに陳列されている各種ゼリー製品。一口にゼリーといっても多様な食感のゼリーが販売されており、実際に触ってみるとその違いとバリエーションに驚くかもしれません。こういった食感のバリエーションを生み出すには、その処方だけではなく様々な多糖類を併用し達成している場面が多く見られます。極端な例を示せば、多糖類以外の処方はまったく同じでも、多糖類を変更することで異なる食感、味のゼリーになります。

 このように異なる感触を作り出す多糖類ですが、いったいどのようにしてゲル化しているのでしょうか?当然、各種多糖類それぞれにゲル化の仕組みやゲル化モデルが提唱されており、その詳細は当サイトの多糖類の種類ゲル化に関するページをご確認いただければと思います。しかし、ほとんどの多糖類が水に対して1%以下の添加量で効果を発揮し、水の動きを止めることでゲル化を達成します。この時、ゲルの中で多糖類はどのような状態で存在しているのでしょう。

 そこで今回は、ゲル内部の多糖類を観察するために走査型電子顕微鏡(Scannning Electron Microscope:以降、SEMと省略)を使用して、写真を撮ってみようと思います。ゲルの状態を観察する試料は、LAジェランガムとHAジェランガム。どちらも同じジェランガムですが、側鎖の状態が異なることでまったく違う感触のゲルを形成する特徴があります。LAジェランガムはかたくて弾力のない、脆いゲルを作ります。一方のHAジェランガムはやわらかくて弾力性に富んだゲルを作ります。当然、側鎖の状況がゲル物性の違いに大きな影響を及ぼしていると考えられますが、この時ゲルの中でジェランガムがどのように存在しているのか観察してみます。今回は、一定の濃度(HAジェラン:1%、LAジェラン:0.6%+Ca)で調製し切り出したゲルを液体窒素で凍結させた後に低真空SEMを用いて観察を行いました。

 まずは、HAジェランガムの観察結果を以下に示します。
豆知識18-1 HAジェランガムのゲルは、非常に細かな網目のような構造をしています。
 一方、LAタイプのジェランガムはどのような構造なのでしょうか。
豆知識18-2 LAジェランガムの構造はHAジェランガムと比較して太い構造が不均一な形で存在しており、より密な構造をとることが分かりました。

 HAジェランガムとLAジェランガムではゲル化の機構が異なると考えられており、そのゲルの物性も大きく異なります。その物性の差はこの構造に起因している可能性が高く、LAジェランガムは分子が密に集まることで強固な構造を形成しますが、柔軟性にかけていると考えられます。一方で、HAジェランガムはそれぞれの分子は密に集まらず網目のようなネットワークを形成することでゲルになります。その構造から、かたく強固なゲルにはなりませんが、柔軟性に富んだ弾力のあるやわらかいゲルを形成していると考えられます。

 最後にHAジェランガムと比較してより弾力があり、切れにくいゲルを形成しやすいキサンタンガム×ローカストビーンガムのゲル(多糖類濃度:1%)の観察結果を以下に示します。
豆知識18-3 キサンタンガム×ローカストビーンガムのゲルを観察するとHAジェランガムよりも細かな構造を作っている様子が観察できました。この構造の違いがHAジェランガムよりも強い弾力性を示す要因であるかもしれません。

 今回、ご紹介したSEM画像は、比較的簡易的な手法で撮影した画像になりますので、細かな条件の検討や手法を工夫し、多糖類濃度も変化させることでより詳細な状態観察が可能になると考えられます。SEMの仕組みや観察手法については、いずれ機会を設けてご紹介したいと思います。次回は、キサンタンガムに関する内容をご紹介する予定です。

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