測定手法のお話~粘弾性測定の実際 その1~
測定手法
粘性や弾性を測定する方法は様々な方法が考案されており、それぞれの方法には得意な分野や不得意な分野が存在します。そんな数ある測定の中から、比較的実際の観察結果に近い値が得られ、粘性と弾性を同時に測定できることから、広く使用されている動的粘弾性測定について、ロイドくんがエコーちゃんに講義を行うそうですので、覗いてみましょう!!あれ?講義にもう一人新しい参加者もいるような・・。
講義その1:動的って?静的は??
ロイドくん :
動的粘弾性測定の話を始める前に、頭についとる「動的」とは何か、まずは考えてみよう。「動的」とはどのような状態を指すかわかるかい?
エコーちゃん:
うーん・・・「動」って付くくらいだから、動いている状態かなー。逆に動かない状態を「静的」って表現したりするんじゃないかなー。
ロイドくん:
なかなか鋭いのー。一般論的には正解じゃ。しかし、粘弾性測定においては、少し事情が異なるんじゃよ。先に「静的」から説明すると、「歪や応力のうち1つが時間の経過と共に変化しない」測定とされているんじゃ。
エコーちゃん:んー・・決まった力で押し始めたらずーっとそのままの力で押し続けるってことー?
ロイドくん:
そういうことじゃ。具体的には、前に話をした粘度の測定に使用される回転式の粘度計などは、一定の回転を続けることで粘度を測定するので、静的な測定手法とされるんじゃ。
エコーちゃん:ふーん。じゃあ、粘弾性の測定は動的しかないのー?
ロイドくん:
良い質問じゃ。粘弾性の測定にも「静的」な測定方法があって、クリープ測定や応力緩和と呼ばれる測定方法があるんじゃよ。ただ、最近は「動的」な手法の方が良く使われておる。
エコーちゃん:測定にも流行ってあるんだねー。じゃあ、粘弾性測定の「動的」ってー?
ロイドくん:
それは、「歪みと応力の両方が時間と共に変動する測定」とされているんじゃ。ちょっとわかりにくいんじゃが、動的粘弾性測定はオシレーション(Oscillation)測定とも呼ばれていてな。つまりはブルブルと縦横や回転方向に連続的に変化する振動を与えることで、線形領域の粘弾性を測定するんじゃよ。
エコーちゃん:ブルブルーって動く測定なんだねー。
講義その2:線形と非線形な領域
エコーちゃん:ところで、突然出てきた「線形領域」って何ー?
ロイドくん:
すまんすまん、説明を忘れておった。しっかりとした概念のさわりの話をすると、「粘弾性の概念ではBoltzmannの重畳原理が成り立つ場合、応力と歪に比例関係が成り立つ時は線形粘弾性、当てはまらない場合を非線形粘弾性」というんじゃ。
エコーちゃん:??????
ロイドくん:
しっかりせんか。では、非常に乱暴な解釈じゃが少し例えを交えて話そうかのぉ。例えばゼリーを壊したり乳液を容器から注ぎだす時、中身の物質はどんな変化をしておる?
エコーちゃん:もとに戻らないくらい、形が変わってるっ!
ロイドくん:
その通りじゃ。ある物質に力を加えて物質が大きく変化してもとに戻らないような領域を非線形領域や大変形領域というんじゃ。さっき少し話した回転粘度計による測定も、一定の力でグルグルと溶液をかき混ぜることになるので、非線形領域における測定方法と言えるのぉ。
エコーちゃん:じゃあ、線形領域ってゆーのは、壊れない領域のことー?
ロイドくん:
その通りじゃ。物質の破壊が起きないような小さな力を加えて物質に微小な変形を加えた時の、応答を測定するのじゃ。
エコーちゃん:けど、そんなに小さな変化で何か意味はあるのー??
ロイドくん:
うむ。ゼリーを指で軽くつついても、ゼリーは壊れないが反応はあるじゃろ?あの微小な反応を測定することで、物質を保存している時の挙動じゃったり、力を加えて大変形が起きる前の変化を捉えることができるんじゃ。物をぐちゃぐちゃにせず測定するので、その物質が持つ基本的な特性を把握する為に非常に役立つとされているのじゃ。
エコーちゃん:
なんだかすごい測定のような気がしてきたよー。ってことは動的粘弾性の測定ってゆーのは、物が壊れない位の弱い力でブルブルさせる試験なんだねー。
ロイドくん:
・・・。まぁ・・そう言うことじゃ。線形領域で動的な測定を行って、粘弾性を測定する、つまり測定したい物質に対して、非常に小さな歪(振動)を繰り返し与えながら、必要な条件を変更し、その応答を測定する方法なんじゃよ。
講義その3:スライムのつぶし方
エコーちゃん:けど、粘性のネバネバと弾性のバネを同時に測定するなんて、とっても難しいんじゃないのー?
ロイドくん:
そうじゃなぁ・・・ニュートンの法則に表される粘性と、フックのバネの法則で表される弾性という2つ要素は、まったく違う性質なので同時に測定することはとても困難なんじゃ。しかも、粘弾性を持つ物質を変形させると、変形に必要な力は時間の経過と共に変化するので、簡単には粘弾性の1つの数値として表せないんじゃ。
エコーちゃん:なんだか、話だけでとっても難しそうなのが伝わってくるけど、どうゆーことー?
ロイドくん:
では、粘弾性物質として有名なオモチャのスライムを例に考えよう。スライムを手の上に載せてそのままにすると、どんな風にスライムは変化するかのぉ?
エコーちゃん:んーとねー・・・どろーってゆっくりと変形して、指の隙間から流れ落ちるよー。
ロイドくん:そうじゃのぉ。では、手の中で勢い良く握りつぶすようにした時はどうじゃ?
エコーちゃん:
勢い良く変形させる時にはぎゅっと強い力をかけないと変形できないなー。あとスライムって地面とかに投げつけると、跳ねたりするから楽しいんだよねー。
ロイドくん:
確かにそんな風に跳ねさせることも出来るのぉ。けれども力をたくさん使って握りつぶしたスライムも、そのまま握っていると勝手に流れ出すようにならんか?
エコーちゃん:確かにー。握りつぶすのに強い力が必要だったのに不思議だねー。
ロイドくん:そうじゃなぁ。これが、変形に必要な力が変わるということじゃ。素早く形を変えるにはたくさん力が必要じゃったが、ゆっくりとした変化にはほとんど力を使っていないんじゃ。
エコーちゃん:
握りつぶしたり、地面にぶつけるのは素早い変化で、手の上においておくのはのんびりした変化だもんねー。
ロイドくん:
粘弾性の物質はスライムのように力と変形の関係が時間と共に変わるので、評価には時間の概念も重要となるんじゃ。それが、より測定を困難にしているんじゃな。
エコーちゃん:
なんだかすごく測定するのが難しそうだねー。ところで、黒板に書いてある絵の話がまったく無かったけど、それは何の絵なのー?
ロイドくん:これは次回の講義で説明する予定じゃ。これ、デントくんも居眠りしとらんで、しっかり起きなさい!
おやおや、新加入のデントくんは居眠りをしてしまっていたようです。次回(2月10日更新予定)の豆知識では、デントくんも交えて、とっても有名なモデルを使って測定の原理の講義が続く予定です!