食品 – 冷菓について2 – 冷菓に使用される代表的な多糖類とは

前回、冷菓の分類や製造法についてご紹介しました。今回はいよいよ、冷菓に使用される安定剤の役割と、その種類別添加効果について解説していきます。
 書籍にもよりますが、冷菓における一般的な安定剤の添加量は0.2~0.5%程度とされており、増粘多糖類以外にもゼラチンやアルギン酸ナトリウム、CMC(カルボキシメチルセルロース)、微結晶セルロース等も使用されます。皆さんが普段、スーパーやコンビニで購入されている冷菓の多くにこれらの安定剤は使用されており、その品質に様々な恩恵をもたらしています。
 一方で、製品コンセプトによっては安定剤が使用されない場合もあります。傾向としてはアイスクリームに分類されるような高価格帯が該当します。乳製品等の素材そのものの味を活かすため、不使用としている場合が多いですが、食感デザインや品質への制約、コストが高くなる等、製品設計の難易度が上がる場合があります。


◆ 冷菓における安定剤の添加効果とは

 今回は書籍等で紹介される、一般的な添加効果についてご紹介します。

✔ ミックス液への粘度付与
 適度な粘度付与は作業適性の向上や、以下記載の項目に影響を及ぼします。一方で増粘しすぎたり、ゲル化したりしてしまうと、作業適正や食感に悪影響を及ぼすため、注意が必要です。

✔ 懸濁安定性保持
 乳タンパクの沈殿や、クリーミングを防止します。

✔ オーバーラン性向上
 フリージング時のアイスへの空気混入を助長します。

✔ 食感改良
 冷菓の食感を滑らかにし、様々なフレーバーに合わせた食感改良に寄与します。

✔ 氷晶抑制
 冷菓に含まれる氷晶成長を抑制し、滑らかな食感を保ちます。

✔ 保形性向上
 ソフトクリームの充填時の形状保持や、常温での溶けやすさを防いだりします。

✔ 品質保持
 パッケージ等への離水や、食感が悪くなるのを防いだりします。


 一例として、安定剤無添加と、安定剤添加時のラクトアイスの電子顕微鏡写真をご紹介します。安定剤添加により、氷晶が小さくなっていることがわかります。

図1. ラクトアイスの電子顕微鏡画像
左:安定剤無添加、右:0.3%タマリンドシードガム
A:気泡、I:氷晶。氷晶は昇華するかによって判断。




◆ 冷菓安定剤に使用される代表的な多糖類について

 「冷菓に使用される代表的な多糖類は何?」と考えたとき、真っ先に考えるのは「製品の原材料表示」を見ることです。しかし残念なことに、冷菓の原材料表示の大半には「安定剤(増粘多糖類)」としか記載されていません。以前ご紹介したとおり、複数の多糖類を使用している場合は簡略名「増粘多糖類」表記となっているのです。

 このため、本報ではアイスの本場、米国における冷菓安定剤のマーケティングデータや日本における当社の販売実績を勘案し、代表的な4種の多糖類についてご紹介していきたいと思います。


グァーガム

ミックス液に適度な粘度を付与し、冷菓に粘り気と厚みのある食感改良効果がある。
安価なため、多くの冷菓で使用されているが、独特の豆臭が冷菓のフレーバーリリースへ影響を及ぼしたり、添加しすぎるとべとついたりするため、添加量には注意が必要。他多糖類と比較するとオーバーラン(空気混入)を助長する傾向が強い。


ローカストビーンガム
冷菓用安定剤の代表的な多糖類です。ミックス液に適度な粘度を付与し、冷菓への粘り気付与は少なく、食感を滑らかにする。また、冷菓の品質を長期間保持する効果があり、凍結解凍することによりゲル化するため、冷菓が溶けにくく、良好な保形性を保つことができる。
近年は不作によって価格が高騰しています。


カラギーナン
ミックス液に多糖類を添加した場合、多糖類の影響により乳タンパクが沈殿することがある。乳しょう分離(Wheying off)と呼ばれるこの現象は製造工程や食感への悪影響を及ぼす。カラギーナンはタンパクと反応することにより、低添加でこの乳しょう分離を抑制する効果を示す。添加量はグァーガムやローカストビーンガムと比較すると1オーダー低く、0.01~0.02%程度。
添加量が多いと増粘、ゲル化するため、注意が必要。


タマリンドシードガム
日本では冷菓への使用は一般的で、北米でも冷菓への採用が伸びている。
ミックス液への粘度付与効果が少ないため、べたつきの少ない、自然で滑らかな食感となる。また、ローカストビーンガムと併用することにより、保形性効果を向上させたり、食感改良効果、品質保存性を向上させたりする機能がある。このため、近年のローカストビーンガム価格高騰を背景に、代替品としても使用されている。


 以上、- 冷菓について2- 如何でしたでしょうか。
 次回は、冷菓で発揮されるロイド君の実力についてご紹介したいと思います。

参考文献
日本アイスクリーム協会
● Goff HD, Hartel RW. Ice cream 7th edition, Springer; 2013.
● 湯山荘平, アイスクリームの製造, 光琳, 1996.
● M Bahramparvar et al., Application and Functions of Stabilizers in Ice Cream., Food Rev. Int., 27:389-407, 2011

 

 

 

 

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